特集 耳鼻咽喉科におけるショック様症状とその対策
経験例
ショック様状況についての経験例・10
山本 常市
1
,
小松 晃
1
1昭和医大耳鼻咽喉科
pp.1098-1099
発行日 1963年12月20日
Published Date 1963/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492203174
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いわゆるシヨック様症状には種々の型が見られる事は衆知の事実であり,程度も極めて軽微のものから重篤なもの迄の広範にわたり,中には死の転帰をとるものに遭遇する不幸な場合もあるのである。・経過についても極めて急激な電撃型のものもあるし,比較的緩徐な経過を示すものもあつて,いろいろであるが,概して短時間中に症状の全経過を終了するものである。原因としては薬物中毒によるものや手術操作によるもの,麻酔法によるもの,特異体質によるものが挙げられ,その発現機序に関しては種々の考察が加えられているが,急性末梢循環不全の形で現れるものに名付けられていると考えてよい。シヨック様症状が個々の症例で発生するか否かの予知は出来ないが臨床医としては誰もがいつか経験するものであつて,この点について常に細心の注意をおこたつてはならない。
症例 1. 私(山本)が栃木県立宇都宮病院に勤務していた時分だから今から30年ほど前であるが,50歳の女子の上顎洞蓄膿症の手術の前に医局員が犬歯窩に0.3%のツトカイン液を約13cc注射して約5分の後胸内苦悶と嘔気を訴え,まもなく呼吸停止,心動も停止,脈搏もふれなくなつた。直ちに強心剤を注射し,人工呼吸を行い心臓にもアドナリンを注射したが終に回復しなかつた。この際の死因は何であつたか,注射液の間違いもなく,使用量も多くはなかつたはつである。ツトカインはコカインの2倍強く作用するのであるが0.3%なればコカインの0.6%であるから濃度が濃いとも思えない。現在はあまりツトカインは用いないようだが,その当時はよく使用したものである。この症例はいわゆる特異体質ではなかつたかと思う。
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