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われわれ臨床医が,日常外来診療および手術に際してしばしば遭遇し,その都度,肝を冷されるいわゆるショツクという状態がある。ショックとは一体どんな状態であるか? 一般にはショックは一次型と二次型に分類され,一次型ショツクの主症状は血圧下降が極めて速く,脈は徐脈を呈し,顔面蒼白,冷汗をかき,急に意識に障害が現われ,あるいは意識を失つてしまう。この際細小動脈,細小静脈に拡張が見られ,筋のトーヌスが低下するすなわち副交感緊張症状を呈するという。二次型ショックは何らかの侵襲後あるインターバルをおいて発生し,短時間の意識喪失はなく,漸次昏睡状態に陥るのが普通で,心搏数は促進して頻脈となり,精神的に不安状態となり,ときに騒いだり暴れたりする。この状態が長くつづくと不可逆ショックの状態となるといわれている。一次型ショックでは早いときには1〜2秒という短時間に失神状態となるが,二次型ショックで脳血流量がそれほど高度に減少しないから,失神状態になる事は稀である。ショックの療法が巧みに行われる様になつた現在では二次型ショックの典型的なものはあまり見られなくなつた。ショック様症状とは上記の2つのタイプのショック症状が含まれる広義の症状と考えてよいであろう。
一次的ショックの成因については,広い意味で迷走迷走反射(Vagovagal reflex)にもとづくとされている。したがつてわれわれが常に接せねばならぬ咽頭,喉頭,食道,気管,外耳道,鼓膜などには迷走神経より神経の分布をうけており,かつまた三叉神経,舌咽神経にも求心性の副交感線維があるとされているから,迷走迷走反射タイプの一次型ショックから,所詮まぬがれ得ない運命にあるわけである。簡単な操作,たとえば鼻処置,上顎洞穿刺や,外耳道清拭,鼓膜切開等で,顔面蒼白となり,意識障害を来す様な場合をしばしば経験するが,しばらく頭部を低くし,安静を保たせるだけで容易に回復する。この程度なら誰でも多数経験があるが,重篤な状態に落入るものは甚だ少ない。われわれは幸い上記の様な場合,重篤なショックは未経験である。むしろ手術中,術後の出血,ペニシリン注射などによるいわゆるショックが重大である事はいうまでもない。これらをショック症状とすればあたかもショック症状に見えるが,実際には急激な血圧下降が見られず,その成因が前述せるVagovagal Reflexによらず,心送血量減少による無酸素症でないものをショック様症状と考えてよい。
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