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緒言
前頭洞手術法のOsteoplastische Methodeとは耳新しく又奇抜な手術法であるかの様に感じられるが,手術法は極めて簡単である。即ち,前頭洞の前壁を全部,そつくり1枚の骨弁Knochen—lappenとして剥離して,洞内の粘膜を除去した後に骨弁を原位に整復する術式である。こうすれば前頭洞の形や大さに変化があつても,粘膜の取り残しがなく,実に理想的であり,合理的である。此の着想の下に前頭洞と前篩骨部を同時に手術することにすれば,手術の困難も危険性も可成り緩和されると思いつき,約2年前来実施して今日迄150余例を経験して来た。本法は予期の通り簡単容易で短時間の内に粘膜が完全に除去が出来而も危険性がなく,経過も頗る良好であつた。本法開始以来,時間と労力が著しく軽減されたので,最早Killianの変法を再び行う魅力が完全に失つて仕舞つた。
本法開始の当時を述れば,前頭洞の前壁を洞形に応じて鑿離し下端は鼻前頭縫合部に及んだ骨弁を離開した洞内の状態は予想だにしなかつた様相を呈して居た。第1創面の広大なのに恐れをなした。第2に洞内及び其の他の病変状態が有りのまま観察が出来,その状態は奇観を呈するの一言より表現の方法がない,前頭洞膿症とは此の様なものかと驚嘆した。粘膜の剥離は単純形では一分を要しない,Killian法を行つて居るものには信じられないであろう,Recessus frontalis, Recessus ethomoidalisが強く側方又は小翼内に拡大伸展して居ても,骨弁の除去で殆んど露出の状を呈して居るから。粘膜の除去は容易である。複雑形でも骨弁の除去で単純化して仕舞う。前頭洞の前後壁が殆んど接着する様な場合で而も巨大洞であればKillianの変法では容易ならぬ苦心をするが,前壁を除いてあるから気付かずに手術し,整復時に発見する様なこともあつた。前頭交通路,頭蓋底部,前篩骨部等も全露出の状態にあるので何等の危険もなく手術が短時間の内に終つて仕舞つた。何といつても時間と労力が少なくてすむので大いに救われた,骨弁の整復は器に葢する如く何等の苦心もなく隙がなく,ぴつたりと納まる。此の術式の理想的なのに満足して居たが,後に不安を感する様になつた。それは巨大なる「せんべ」状の骨弁が果してよく癒着するか如何かの心配である。若しネクローゼに陥る様な不運になつたら,大きい社会問題となり破滅は覚悟しなくてはならぬと,以来懸命に経過を監視して居たが,幸にして杞憂に終り経過は益々順調であつた。前頭交通路が長期間開通して居るのが特に意外に感じられた。此の術式を創案したのには次の動機からである。
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