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耳へ虫が入つた話
K
pp.83
発行日 1954年2月20日
Published Date 1954/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201080
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今から約160年ほど昔の寛政7年卯6月下旬のことであるが,池田筑州という人が,營中で語つたことである。夜中に非常に難儀した事があるといつたので,どんな難儀をされたかと尋ねてみた。すると池田筑州は,燈(多分行燈)のところで耳を傾けて居つた所が,耳の内へ,餘程變つた虫と見え,耳の中に飛び入つた。穴中を無理に,かきわけようとしたが,痛いのでどうすることも出來ない,身體をふせて苦しんで居ると,親族家童が集まつて來て,耳の中の虫を取り出さうとするが,百計なしかねて,長屋へ來る外科醫が,耳の中に虫が入つたのを取出した事があると云う話を聞いた事を覺えていた。
家人が早速その外科醫の所へ行つた。午前三時頃,その醫師が來て,樣子を見てくれた。醫師は,紙よりの先へ,何か膏藥のようなものをつけて,耳の内へ入れて,痛む所までとどいたので,しばらくして,引き出した所が,膏藥がとけて,耳の中の虫が紙よりについて出て來たのを見れば,米つき虫と俗にいう虫であつた。醫師に即効を賞して尋ねてみると,別段に藥を使用したのではない,それは萬能膏であつて,一度で取出されない事があるが,今度のは耳の中で膏藥が溶けて,それに虫がついて引出すことが出來た。尤も油藥を最初にさしたから,虫が死んだため,痛が比較的少なかつたのである。と語つたとのことである。
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