特集 難聽研究の進歩
耳鼻咽喉科と音響学
颯田 琴次
1,2
1日本音響学会
2東京芸術大学
pp.575-577
発行日 1952年12月20日
Published Date 1952/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492200804
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物理学的見地から観察すれば,音波と超鼓波との差は,同一現象の容相の相異にすぎないが,感覚の受容器を研究の対象とする吾々の立場から見ると,この二つのものは,近似性さえもたない全くちがつた存在だ。一方が,聽器に対する唯一無二の適応刺戟であるのに反し,他は現在のところ,その非適応刺戟たる資格さえもつてはいないもののようである。然も物理学に従事する人々は,感覚としての音現象に就て顧慮するところ少なく,ただ外界の振動としてのそれを追求するにとどまり,音ということのすべてを解釈しえたかのように信ずる傾向がないでもない。
これでは然しむりであろう。現今の物理学の進歩を全的に応用して,空気の振動を詳細に記録し,波形によつてフーリヱの級数分解をおこない。結果が全く同樣な二つの外界現象も,生体に対して,常に同一の刺戟効果を発生するものとはかぎらない。ここに生物学源自の境地が存在しうるものである。この点に就ての考慮を欠けば精密な計測も,精密であればあるほど,ますます事実と遠ざかるようなことさえまれではない。
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