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第1章 緒言 耳管に就ては16世紀Eustachioの記載以来幾多先人により解剖的生理的研究が行われて来ているにも拘らず,臨床的方面の細部に関しては,その重要性に比し不明の事多く,論議の岐れる所となつている。是は屍体又は模型等に於ける観察,実験による推論がその儘,人間生体に就ても中心的になつている所にも,一半の原因があると思われる。是等の事は,人間生体に於ける耳管の直接観察の困難さと其の重要さと知らしめており,従つて耳管は耳管疾患に於ては勿論,是に関係ある主要疾患に対しても一種の盲点となつていると言える。耳管と言つても,人間生体に於て通常観察し得られるのは耳管開口部のみである。尤もGyergyay (1922)は,口腔より直達的に耳管咽頭開口部から峽部迄を観察しているが,操作の困難と多くの障碍の為,その後此の方法は行われていない。耳管の変化は,耳管咽頭開口部(以下咽頭口部)の変化により大体察知し得られる事は既に鰐淵氏も指摘しておられる処である。事実咽頭口部は,鼻咽腔に於ける唯一の中耳腔との連絡個所であり,この部の形態,機能の正常なりや否やは,耳鼻咽喉科各疾患の発生,治療,予後等と密接なる関係を有するものと思われる。例えば,鼻咽喉疾患が耳管及び中耳腔に及ぼす影響に就て見るに,多くの報告があるが,この際の耳管の形態的病理的変化に関する観察は,人間生体では極めて不充分である。一方Crowe (1939)による「中耳性(伝音系)難聽に対する耳管咽頭口附近淋巴組織へのラヂウム照射療法」の発表以来遽かに此の部に対する関心が集められており,咽頭口部の詳細なる観察が極めて必要であると考えられるに至つた。然るに咽頭口部の観察は,Cleland (1768),Zaufal (1873), Joachin (1889), Simpson (1947),Perlmann (1951)等により各4〜5例宛何れも顔面,口蓋に梅毒その他の原因によつて欠損を生じた異常者に就て行われているに過ぎない。従来咽頭口部の観察は,主として後鼻鏡又は上咽頭鏡によつて行われているが,是等の方法では甚だ見難いのみならず,下方より視るため咽頭口部の詳細なる観察,特に嚥下時開大運動等の観察は殆んど不可能に近い。この点を満足させる為には,鼻腔より咽頭口部を正面側より観察し得る内視鏡的検査法以外には無く,是に就ては外国文献の一部に,Zaufal (1873), Valentin (1903)等の記載があるが,研究報告は皆無に近く,多くの成書には記載がなく,我が国の文献には殆んど認められない現状である。偶々我々は,独乙Wolf社製のAnth—roskop (管径2.4mm)と称するものを通気時耳管カテーテルを挿入すると同樣な方法によつて鼻腔より上咽頭内に挿入する事により,内視鏡的に咽頭口部,即ち前後両脣部,膜樣部,挙筋隆起部及び下甲介後端,咽頭陥凹等周囲の形態,分泌物の性状,発声,嚥下時の咽頭口部の開大運動等を詳細に正面側より観察し得る事を知つた。此の方法によれば,誰でも簡単に障碍なく観察する事が出来る.斯樣な観察は,到底後鼻鏡的検査法では不可能な事である.我々は此の方法を経鼻耳管直達鏡検査法(Salpingoscopia nasalis)或は経鼻耳管内視鏡検査法と呼ぶことにし,既に昭和二十六年度耳鼻咽喉科学会総会で発表した処である。耳管に病変のある疾患,これに病変を生じ得ると考えられる疾患の場合及び是等に対する治療の際には,先ずこの方法によつて局所の形態的病理的変化を充分観察する事が極めて重要な事であり,且当然日常臨床に於て行わるべきものと考える。我々は今日迄この方法によつて耳鼻咽喉科各疾患39種500名992側に就き咽頭口部の形熊,機能を観察した結果,種々興味ある所見が得られたので,観察方法の一層の改良を期すると共に,耳管鏡検査が広く行われる事を念願し,一応此処に発表して批判を乞う次第である。
OHSAWA introduces a method using nas-opharyngoscope, which he calls nasopharyngos-copy, to facilitate visual examination of Eusta-chian tube orifice through the nasal cavity. Such an examination, otherwise, heretofore, has been a procedure that was difficult to perform. Relative to etiology, prognosis and treatment of diseases which involve the Eustachian tube throug such state as presence of constrictions, acute otitis media, middle ear tuberculosis and glanduular hypertrophy at its orifice, the ex-amination reveals many points of interest. The author stresses the importance of following the study further along this line of thought.
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