- 有料閲覧
- 文献概要
皮膚科医にとつて汗疹(prickly heat)はなお謎である。その病因には議論が多く,治療は場当たりである。しかし発症の条件は明瞭で,湿熱中における汗による皮膚の長時間湿潤である。かかる環境におかれてから数日以内に発症する人もあるがその数は少なく,強烈な日光と温暖な海を求める行楽者には皆無でありシンガポール派遣英軍における発症率のピークはその地に着いた後の4〜6カ月にある。ある学者は本症は熱暑に対する不順応の如き全身の代謝障害の皮膚表現であろうと考えている。熱暑と労働が続くと,不順応は発汗の増加に加うるに上昇した体温と脈搏との下降という形で現われる。汗の塩類濃度もまた低下するが,多量の塩類を摂取し続けている者にはこれは起らない。熱に対する順応には,下垂体の向副腎皮質ホルモンおよび副腎皮質の活性が関与すると考えられ,事実,熱暑中ではアルドステロンの尿中排泄が増加する。最近の研究によると,アルドステロンの拮抗物スピロノラクトンは汗の中のナトリウム濃度を増加させアルドステロンを投与すると減少する。それ故,汗と尿との塩類濃度の異常に高い人は,副腎皮質機能低下が疑われるようになつた。1854年以来熱帯医学の教本には海水が汗疹を悪化させると書いてあり,これは食餌中の食塩を制限すると汗疹は軽快し,増加すると悪化するという観察と相補している。更に汗疹および無汗性熱射病後の汗には塩化物の増量することが知られた。Loewenthal等は最近22名の白人を熱暑に曝す実験をした。そのうち10名は慢性または再発性汗疹の既往歴を有していた。実験時には1名も汗疹を生じなかつたが,本症の既往歴を有したものは,他のものより汗および尿に高い塩類濃度を示した。この研究者等は,汗の中の高い塩類濃度が汗疹の病原の一つと考えているが,これの実証はまだ行なわれていない。彼等はまた,被実験者の塩類摂取は大差がなかつたので,汗と尿とに高い塩類濃度を示したものには,副腎皮質機能低下があつたのだろうと推察している。
(Leading Articles : Brit. Med. 2 ; 772, 1964)
Copyright © 1965, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.