特集 皮膚泌尿器科領域の腫瘍
悪性黒色腫
伊藤 実
1
,
吉田 良夫
1
1東北大学医学部皮膚科教室
pp.899-905
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491201823
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本邦に於て悪性黒色腫の占める臨牀的位置は,米国或は他の白色人種に於けるそれと同様とはなし難い。白色人種にとつて本症は必ずしも稀有ではなく,しかも悪性腫瘍中最も兇悪なる腫瘍であり,その楳源を知りその予防,治療の策を確立することが焦眉の問題であり,従つて皮膚色素メラニン研究への道は直接黒色腫に通じているといつてもよかろう。しかるに本邦に於てはこれらの事情が梢々異つている。悪性黒色腫は本邦人にとつては比較的稀有な腫瘍であり,時には白色人種に比してそれ程悪性ではない経過をとることさえある。本邦メラニン色素研究者の直接の目標が,本腫瘍の予防乃至治療であり得ないのは一応当然のこととも云えよう。しかしながらそれでは何故に本邦に於て本症が少いのであろうか。又もし本邦症例がそれ程悪性でないということが事実であるとするならば,それは一体何に基くものであろうか。これらの問題が解決されるならば,そのこと自体が,人類が苦闘しつゝある悪性腫瘍との戦いに何らかの光を投ずることとなりはしないか。この意味に於て本邦に於る悪性黒色腫はそれが少数であればある程極めて貴重なものと云わなければならない。そしてこの問題の探求が我々,白色人種とも黒色人種とも異つた皮膚色調を有する人種に課せられた使命の一つとも考えられる。
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