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昭和35年のころ意識を失った一人の青年が入院し,脳血管撮影によって慢性硬膜下血腫と診断された.ある事情により手術は暫時延期されたが,この間ベッド上に安静を保っていた患者の意識は思いもよらず徐々に回復してきた.一週間後に予定どおり血腫は全摘されたが,術前の意識はほぼ清明であった.これはどういうことか?この頃までに慢性硬膜下血腫と診断されながら,手術を拒否して退院した患者が6,7人いた.彼らはどうなっているだろう.みんな死んでしまったのか?私の好奇心がむくむくと頭をもたげた。全員に手紙を送ると共に,近県の人の場合はその自宅まで尋ねていった.別の疾患で亡くなった一人を除き,なんと血腫除去手術を受けなかった全員が元どうり元気に働いていたのである.私の好奇心は爆発的に燃え上がった.これが慢性硬膜下血腫を私のライフワークとしたきっかけであり,以後30余年にわたって私に研究の楽しさと充足感を与えてくれたテーマのひとつである.
“セント・アンドリュースにこの間行ってきたよ”とゴルフ愛好家に言うと,“ホー”と感嘆とも羨望ともとれる声が返ってくる.セント・アンドリュースはゴルフの発祥の地として知れわたっている.しかしこの古い地名はなんだろう? 物の本によればスコットランドの守護聖人だそうである。エジンバラから車を飛ばして約3時間,近づくにつれて先ずびっくりさせられるのは,墓石に取り囲まれた三階建ての巨大な石造り壁と煙突だけが聾え立つ,大教会の廃塘一セント・アンドリュース大聖堂である。帰国してから世界史を開いてみたところ,1547年の頃旧教徒と新教徒との戦いがこの地ではげしく,その際に破壊し尽くされたのである.またここにあるセント・アンドリュース大学は1411年創立されたスコットランド最古の大学である.好奇心の赴くまま資料をひもとくと,ゴルフ以外のセント・アンドリュースが次々と見えてきて楽しみと知識が膨れあがる.
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