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I.はじめに
ギリシャ人のGalen of Pergamus(131 to 201A.D)による牛脳での神経解剖の記載がありその中に初めて松果体を認めている.松果体はunpaired structureであり,精気の流れをコントロールしていると考えられていた.この考え方は17世紀のフランスの哲学者Rene Des—cartesに引き継がれることになる.20世紀の初めには松果体が性機能,皮膚の色素沈着に関与しており,光覚刺激に反応することが解って来た.
フランスの哲学者René Descartes(1596-1650)はDe homine(人間論,1662年)の中で精神.運動機能で松果体と脳室が極めて重要であるとしている.即ち松果体は魂の座で,人体を支配する中心であり,松果体は脳室内のanimaの精気の流れをコントロールするとした.De homineの中でFig.1のように物体ABCからの光は目の中に入り,網膜上に視覚像をつくりそこから視神経を示す内腔のある管によって,脳室の壁と結合しているとした.管からのメッセージは霊魂精気として脳室を通過し,西洋梨の形をした松果体(H)に至る.この松果体から運動刺激が生じ神経に送られ,腕の筋肉へ至る.求心性と遠心性の要素があり反射の基本的理論をみる.Des-cartesのこの考え方は単に松果体が脳の正中深部にある神秘的なものとしての位置づけから発展したものであろうが,反射回路としての説明は別として奇しくも光覚刺激と松果体とを結びつけた点は,何らかの因縁めいたものを感ずる14).
1898年のOtto Heubnerが若年男児でprecociouspubertyを呈し,剖検で松果体腫瘍を発見し報告した例が,松果体が生殖機能に関係するとした初めてのものであろう25).
1954年KitayとAltschuleは松果体腫瘍と生殖機能について松果体はantigonadal substanceを分泌しているが,腫瘍によって松果体実質が破壊されると性早熟となり,松果体の実質腫瘍では分泌過多となり,性機能不全になるとした謝.それらの松果体と生殖機能との関係が注目される約40年前に,動物学者McCordとAttenは松果体の分泌物がオタマジャクシの形態発生に影響を与え,松果体エキスを投与すると30分後に半透明になることを発見した39).1950年Lernerらはこの皮膚の色を淡くする松果体エキス中の成分がヒトの白斑(vitiligo)とも関係あると考え,その同定の研究を始めた.20万頭の牛松果体を集め,4年間かけ分離.精製しこの物質がカエルの皮膚のメラニン保有細胞のメラニンを凝集させて,皮膚の色を薄く(退色)させる作用があることから,メラトニン(melatonin,MLT)と命名した33)上メラトニンの同定には種々の方法が考えられて来たが,初期のbioassay法からspectro.photofluometry法gas chro-matography法’radioimmunoassay法への変遷がある(Table 1)37).
メラトニンの組織分布をさぐる手がかりとして,メラトニン形成酵素のHIOMT(hydroxyindole-O-methyltransferase)はメラトニン存在部位を示す極めて特異的なマーカーである.この酵素は松果体,松果体由来の腫瘍や松果体以外の網膜,瑠歯類のHarderiangland,脳室脈絡叢にも存在する.一方メラトニンは免疫組織科学的方法で網膜のouter nuclear layer,視神経及び交叉,視交差上核に認められる9).中枢神経以外ではメラトニンは食道,胃,十二指腸,盲腸,大腸,直腸などのgastrointestinal tractにも存在する10).
血中のメラトニンは松果体を摘出すると消失することから,唯一松果体で作られたメラトニンが血液や髄液により脳の各部や全身に運ばれるとされている.松果体には他にvasotocinというoxytoxin vasopressinに似たpeptideも存在することから,これらも分泌されると考えられている65).脳内ではメラトニン作用のtargetは視床下部,脳幹と考えられており2),また,メラトニンは胎盤を通過し母乳中に放出されて胎児と性機能に影響を与えるという52).ヒトにメラトニンを投与するとパーキンソン病のtremorやrigidityの軽減効果がみられ,sleep-inducing effect,REM睡眠の延長を生じることなどが解ってきた1).
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