扉
待て,そして希望せよ
生塩 之敬
1
1熊本大学脳神経外科
pp.699
発行日 1988年5月10日
Published Date 1988/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436202622
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大デュマの『モンテクリスト伯』の中に,モンテクリスト伯が,人生に絶望した青年を,「死ぬほどの不幸を味わった人だけが,本当の幸福を感じ取ることが出来るのです.待て,そして希望せよ」と励ますところがある.中学生の頃か,これを読んで心に残り,前半はともかく,後半の言葉は,いつの間にか私の人生訓の一つになってきた.少し消極的だとは思っていたが,いつの頃か,元大阪大学学長の山村雄一先生が「研究は夢見て行い,成果が出たとき,それが世の中で認められるか否か,祈りながら待つのみだ」という意味の事を書かれているのを読み,デュマの言葉も山村先生の言葉に通じるのかと納得したことがある.
さて,私自身のことを振り返ってみると,この人生訓は私は大いに益して来たように思う.今まで,待っていて損をしたと言う思い出はないし,希望しながら待つことにより,多くの大切なものを得てきた.しかし,こと研究となると,なかなか山村先生の言葉通りにはいっていなかったようである.最初,夢だけは大きく持っていたように思うが,段々と萎んで小さくなってしまい,結果は世に問う程のものではなく,逆に,僅かなものを認められるために盛んに宣伝したようにも思う.
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