扉
TO DO OR NOT TO DO
西村 周郎
1
1大阪市立大学脳神経外科
pp.5-6
発行日 1976年1月10日
Published Date 1976/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200393
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先日の新聞で,また身体障害者殺人事件が報道されていた.脳性小児麻痺で寝た切りの16歳の少年の命を,その父親が思い余って奪ってしまったのである.たとえ不治の病を背おい,ただ生の希望のみを与えられていた子どもでも,その命を奪うことは殺人であり,絶対に行うべきでないのは言うまでもない.しかしこの父親のこれまでの苦労がどれほどであり,一方少年の16年間の人生は果たして幸福であったかなど,考えるべき問題も数多く存在すると思われる.
このような問題は,われわれ脳外科医にとっても無関係ではない.積極的な治療を行ったために,かえって不幸な人をつくるようなことはないであろうか.たとえばグリオブラストーマで,すでに麻痺,失語症などが発現している症例でも,たしかに手術により延命せしめることはできるであろうが,症状の改善がなければ生存の意味はなくなる.肺癌の脳転移などでは別の問題がおこる.肺の原発腫瘍が切除不能であっても,転移脳腫瘍が切除できれば,症状は改善され,ある期間は延命するかもしれない.しかし一方では,「肺癌で苦しんで死ぬよりも,転移脳腫瘍のために死ぬ方が意識障害もおこり患者にとっては楽であろう.だから脳の手術を行わぬ方がよい」と考える者もいるかもしれない.
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