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Ⅰ.はじめに
脳神経外科手術合併症のシステマティック・レビューシリーズの第6回目は,蝶形骨縁(sphenoid ridge)および傍鞍部(parasellar)髄膜腫がテーマである.WHOの組織学的分類(2007)では髄膜腫の大部分がgrade Ⅰに分類され56),日本における1991~1996年の調査で5年生存率は93.7%とされている43).しかし良性腫瘍であるにもかかわらず,全摘出が得られなかった髄膜腫の再発率は5年で33%61),肉眼的全摘出が得られた症例の10年無増悪生存率が61%であったのに対し,非全摘例では37%と報告されており,必ずしも満足できる転帰は得られていない14).
われわれは頭蓋底髄膜腫自験例281例を検討し,摘出率が再発率と有意に相関することから,初回手術における徹底切除の重要性を報告した72).しかし一方で,MRIが普及した結果,無症候性の良性腫瘍が発見される頻度が増し36),加えて定位放射線治療の発展に伴い,良性腫瘍の治療戦略は変化してきた.すなわち,摘出に伴う周術期合併症によるQOLの悪化は容認されない時代になっている47).われわれは,頭蓋底髄膜腫の手術リスクを検討し,腫瘍付着部のサイズ,動脈あるいは脳神経の巻き込み,脳幹への癒着,頭蓋底中央部の局在,の5項目が手術合併症の発生および摘出率低下に相関することを報告した2).術後の障害を回避するために,high risk群においては意図的に全摘出をせず,残存腫瘍に対する定位放射線治療を推奨する論文も増えている47)が,長期にわたる腫瘍制御を得るためには定位放射線治療に先立つ手術において徹底切除が行われていることが必要38)である.また,蝶形骨縁髄膜腫は有意に増大しやすく,「脳ドックガイドライン2008」においても,「蝶形骨縁内側型の髄膜腫は,視力障害発症後はその回復が困難であるため,予防的な摘出手術が勧められる」68)とあり,初回手術こそが全摘出できるチャンスである93)ことも,治療計画を立てるうえでは重要なコンセプトである.
今回のテーマに限ったことではないが,脳腫瘍手術において合併症を出さずに徹底切除を行うためには,豊富な経験に裏づけられた技術と知識が必要である.Cadaver dissection courseやハンズオンセミナーなどで頭蓋底外科における技術面の訓練は受けられるものの,合併症に関する知識を得ることは個人的な経験のみでは難しい.本連載開始以来,序文で繰り返し述べられているように,本検討の目的はreferenceとして活用し得るデータの提供にある4,37,40,46,100).言うまでもなく,エキスパートが行った治療成績をそのまますべての術者に適応することはできない.蝶形骨縁,傍鞍部髄膜腫の手術は,腫瘍の進展方向によって異なるアプローチが選択され,頭蓋底外科の技術を駆使する必要もある.また,腫瘍のサイズや近接する構造との関係によっても手術難易度は大幅に異なる.加えて,頭蓋底髄膜腫の治療成績を報告する施設および術者は限定される傾向にある.したがって,これら個々の症例,施設,術者ごとに合併症を解析しても,一般的なreferenceにはなり得ない.過去に報告された合併症の内容とその頻度を把握することの意義は,頭蓋底髄膜腫の手術におけるinformed consentを行う際の一助になるとともに,敵を知り,己を知ることで合併症回避への第一歩となることにあると思われる.
傍鞍部あるいは蝶形骨縁髄膜腫に対し,合併症を出さない徹底切除に挑んだ結果,髄膜腫の全摘率と再発率はどの程度になり,どのような合併症(手術関連死も含む)がどの程度生じているのか,腫瘍発生部位ごとに述べる.
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