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「想定外」という言葉は,天災・悲劇を語る上で繰り返し出てきます.2011年3月,わが国は想定外の規模の大震災に襲われ,多くの人々の尊い命,財産,未来が失われました.そして,想定外の福島原子力発電所事故が起きました.原子力発電所の職員たちの懸命の作業により,チェルノブイリ原子力発電所事故のように多くの人命が失われる事態には至りませんでしたが,事故による放射能汚染は広範囲に及び,今後,多大な費用と長期間にわたる地域の人々の苦悩が続くと考えられます.想定外とは,事前に予想した範囲からはずれることを意味しています.確率の極めて低い天災をすべて完全に予防することは現実的にできないと思います.しかし,確率の低いと思われる災害でも,歴史的スパンや地球的レベルで考えると,いつか・どこかで必ず起こっています.したがって,天災を完全に予防することはできなくても,その被害をできるだけ少なくする「減災」にいかに取り組むかが,国家・社会・そして1人ひとりにとって大切です.
今回の大震災を含め,戦争・経済危機など国家的災いを歴史的に振り返った時,人為的誤謬がしばしば指摘されます.責任ある当事者が恣意的に,あるいは注意を払わず「起こったら都合の悪いことは起こらないこと(想定外のこと)にしよう」という意識に陥ってしまい,その結果,さらに大きな被害を生じることがあります.1979年に起きたスリーマイル島原子力発電所で起きた事故は,米国の原子力に携わる人々に多大な教訓をもたらし,重大事故が起きた時,その影響ができるだけ少なくなるようにさまざまな対策が検討され,実施されてきました.しかし,今回の福島原子力発電所事故では,こうした米国で検討された対策が日本では十分考慮されていなかったのではとの疑問が報道されています.
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