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Ⅰ.はじめに
脳神経外科医が側頭骨原発悪性腫瘍の治療に関わることは比較的少ない.元来の発生頻度が年間発生率人口100万人比で6例程度と非常に低く,その8割は扁平上皮癌が占める19).特に外耳道原発のものは表在性であり,早期治療も可能であり広範囲切除の適応はないことから,脳神経外科が治療に関与するのは,深部に進展した一部の症例に限定される.
これらの腫瘍に対する積極的外科治療は,歴史的に1954年のParsons, Lewisによる側頭骨一塊切除術の概念にまでさかのぼる17).しかし,彼らの100例の報告での5年生存率は27%にとどまり,手術死亡率も10%近かったことから,その後はpiecemeal resectionに放射線治療を組み合わせたほうがより少ない合併症で同様の成績が可能であるとの反論もなされてきた11).1994年に発表されたsystematic reviewにおいても,一塊切除術(en bloc resection)がより予後を改善するとの統計学的有意差が得られていないのが実情である19).
技術的に困難な悪性脳腫瘍や深部頭頚部腫瘍などではpiecemeal resectionがなされているが,いわゆるsafety marginをとった一塊切除は,これらの部位を除いた腫瘍外科では治癒切除のための常識ともいえる概念である.過去数十年の間に耳鼻科・頭頚部外科の手術手技が発展すると同時に,脳神経外科領域においても頭蓋底外科の概念が導入され,側頭骨や頭蓋外の解剖学的知識は飛躍的に普及した.さらに再建外科の普及発展により,広範囲切除後の再建の安全性が高まり,美容的観点からも十分に患者の納得が得られるようになってきた.これらの各領域の発展から,十分に安全でかつsafety marginをとった一塊切除術施行可能例が増えてきているといえる.このような状況の中で,筆者は頭頚部外科(耳鼻科),形成外科,脳神経外科の頭蓋底チームによる積極的外科切除を進めてきており,その経験から本稿では側頭骨悪性腫瘍の一塊切除術についての外科手技を中心に紹介する.本手技は側頭骨原発腫瘍にとどまらず,耳下腺などの外側頭蓋底に発生した悪性腫瘍に対しても適応可能である.
本手術は腫瘍の存在する側頭骨外側部を残したまま深部の骨切除を安全に行うものであり,外側の骨を切除して術野を確保する脳神経外科的頭蓋底外科手技とは若干異なる.視野の角度,術野の深さ,脳の圧排,解剖学的指標の確保などに加え,頚静脈孔部や側頭下窩など頭蓋外の解剖学的知識も要求される.本稿でそのすべてを解説することはできないが,ぜひ関連した解剖書と実物大の頭蓋骨モデルを参考にしていただきたい.
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