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最近,ある学会誌より児童虐待をテーマに原稿を依頼され文献検索を行った.その際,目にとまったのが本文標題“The tip of the iceberg─”で始まる論文タイトルである.“tip of ice─”ときたので,まず連想したのが13日金曜日にあのジェイソンも使ったアイスピック(ice pick)である.「氷山の一角」を「アイスピックの尖端」と早とちりした.冒頭から誠に低次元な話である.しかし─,bergは英語ではなくドイツ語(der)Bergではないか,といつもの詭弁回路がswitch onした.英和辞書(研究社:リーダーズ英和辞典)をひくとbergは氷山[iceberg]とある.Concise Oxford 英英辞典で調べるとbergにはshort for ICEBERGの,またicebergにはa large mass of ice floating in the seaの訳があり,後者には -ORIGIN C18: from Du. ijsberg, from ijs‘ice’+ berg ‘hill’の注釈が付いていた.どうやら18世紀オランダ語起源のtermのようである.医学を含め出所の曖昧な言葉に出会うことがある.わが国のような島国に少ないかどうかわからないが,ヨーロッパ大陸のように国々が国境を挟んで地続きで隣接しているところでは,長い歴史の過程で交易や侵略を通して文化,言語が入り乱れ新たな言葉が生まれるのは当然のことであろう.筆者も約30年前の西ドイツ留学時代,その種の言葉の語源を調べると意外なところに辿り着いたり,迷い込んだりしたことがある.ここ10数年,医療や医学教育の現場にクリティカルパス,チュートリアルなどカタカナ用語をスローガンに含んだ改革が次々と実施されている.いかんせん,外来語を骨格としているためか,本質的な議論になるとその改革の意義や用語の意味が時折曖昧となることがある.改革が必要なのは百も承知である.しかし制度改革をはかろうとする者は,その意義を十分理解し現場の情況も把握したうえで不退転の覚悟でスタートして欲しいものである.マンパワー,時間的余裕のある(暇な),あるいは専従要員の確保できる“理想的”職場は別として,日夜業務に追われる者にとっては思いつきやトップダウンで矢継ぎ早に改革を持ち込まれてはたまったものでない.また改革の成果については長期的価値観から評価を自ら求める姿勢を示してもらいたい.
児童虐待の防止等に関する法律が昨年10月またもや一部改正され,児童虐待早期発見の責任の明確化,被虐待児の保護,自立支援施策への協力が明文化された.通告義務については虐待の事実が明らかでなくとも,「一般人の目から主観的に虐待があったと思うであろう場合」も含まれることになり,それ以外の義務も追加された.児童虐待の約半数を占める身体的虐待のうち生命を脅かし重症化の原因をなすのが頭部外傷であることから,脳神経外科医のかかわる機会が増すことが予想される.児童虐待例に遭遇した場合,上記のような責任,義務をわれわれ医療従事者が立派に果たし得るであろうか.この問いに「否」と答えざるを得ない経験をしたのでthe tip of the icebergとして紹介する.
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