Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
近年,中枢や末梢の神経系から数多くの神経ペプチドが単離・構造決定され,それらのペプチドの神経伝達物質や神経調節因子としての役割が注目されている1)。ここに到るまでの歴史的背景には,いくつかの節目となる研究展開があった2)。すなわち,(1)1931年のウマの脳と腸管に平滑筋あるいは血圧に影響を与えるサブスタンスPの発見および1970年初期の構造解析と神経伝達物質としての確立,(2)1960年代から1970年代の視床下部-下垂体系におけるオキシトシン,バソプレシンの発見とそれに続く下垂体ホルモンの分泌を調節する放出および放出抑制ホルモンの発見,(3)1970年代から1980年初期にかけてのモルヒネ様活性をもつ内因性神経因子としてのエンケファリンとオピオイドペプチド群の発見,(4)CCK,ガストリン,VIPなどの腸管ペプチドが脳にも存在するあるいは逆の場合もあるという脳腸ペプチドの発見,などにより神経ペプチドの研究が分子レベルで進展し始めるようになった。1975年のエンケファリンの発見以降,次々とオピオイドペプチドが単離・構造決定され,続いて遺伝子工学により前駆体タンパク質の構造解析がなされて見事に生合成起源の解明が終了したのは記憶に新しい。その背景には,近年非常に発展進歩を遂げた研究方法に負うところが大きい3)。それらは,(1)高速液体クロマトグラフィーによる微量ペプチドの検出・精製法と(2)微量ペプチド・タンパク質の構造決定法の確立,(3)特異的抗体あるいは標識ペプチドを用いたペプチドおよびそのレセプター分布解析のための組織化学的研究法の確立,(4)遺伝子工学によるcDNA構造解析法の確立である。また,それらの進展を地味に支えてきたのが,(5)ペプチドおよび核酸の迅速な自動合成装置の開発であった。このような科学機器と分析技術の開発発展のもとになされた多様なアプローチは,さらに神経ペプチドの研究を加速度的に進展させ,1980年代に入ると次のような新しい事実を明らかにしている。それは,オピオイドペプチドやタヒキニンなどの研究で典型的に示されたもので,(1)同一構造あるいは類似構造を含む多様な分子種(family)と(2)複数のレセプターの発見,(3)神経ペプチドおよびそのレセプターの組織特異的な分布,(4)それを裏づけると思われる組織特異的遺伝子の発現(スプライシング)と前駆体タンパク質の組織特異的プロセシング,(5)神経ペプチドと他の神経伝達物質との同一細胞内共存例の発見などである。一方で,ホルモンや古典的神経伝達物質の2ndメッセンジャー産生を中心とした情報伝達機構の分子レベルでの解明が詳細になされており,細胞における情報伝達物質の生合成と分泌から標的細胞におけるレセプターとの結合と2ndメッセンジャーの産生までを連続して分子レベルで追跡することが可能になりつつある。そして現時点では,(1)個々の情報伝達系の初期応答から最終応答までのしくみの解明と(2)他の複数の情報伝達網との関連の解明といった徐々に新しくて複雑な段階に入っていると思われる。
現在,表1に示すように既に40種以上の神経ペプチドが発見され,その生理的役割の分子レベルでの解明の順番待ちをしている状態である。
Recent development of the tachykinin studies was reviewd especially on two new members of mammalian tachykinins and their receptors. The recent isolation of neurokinin A and B, the new brothers of substance P, suggests strongly that the possible existence of multiple receptor subtype for substance P and neurokinins. Classical pharma-cological studies and receptor binding studiesusing the radio rabelled substance P, neurokinin A and eledoisin showed that each tachykinin binds to different sites with different affinity in brain and peripheral tissues. Furthermore, studies of the three tachykinins and their receptors revealed that there was not a close relation or match between the distribution of receptors and the distribution of related tachykinins. This mis-match problem suggests that the signal transduc-tion between two cells is controlled not only by the release of the neurotransmitter (s) but also by the existence of the receptor(s). The biochemical events after the binding of the tachykinins to their receptors, for example, 2nd messenger production and the degradation process of the tachykinins, are also reviewed.
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.