Japanese
English
特集 脳の奇形と発生
甲状腺ホルモンと脳の奇形
Thyroid hormone and brain teratism
山上 栄
1
Sakae YAMAGAMI
1
1大阪市立大学医学部神経精神科教室
1Department of Neuropsychiatry, Osaka City University Medical School
pp.232-241
発行日 1972年4月10日
Published Date 1972/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431903372
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I.はじめに
動物の脳は発育初期のある時期に,種々の感染,疾患,ビタミンの不均衡,放射線障害,各種薬物の影響などによって非常に傷つきやすくなるという1)。この時期(Vulnerable period)に傷害が脳に起こると,成熟後,知能と行動の両面で恒久的な欠損を残すといわれる1)。この種の欠損は,古典的な奇形学で問題とされる発育異常に伴うグロテスクな身体の変形や,臓器の形成不全などの肉眼的変化とは異質なものであるが,その基礎となる原理は同じであると考えられる。近年このVulnerable periodで脳に重篤な障害を惹き起こす諸因子について,奇形学的な検討がなされるようになり,発育期のどの期に,どの程度の傷害を受けると,脳に不可逆的な欠損を残すかが奇形学における最も中心的な研究課題の一つとなってきた1)。
発育期における甲状線機能低下症でも,身体,知能の両面で著しい遅滞が起こることは,古くから知られている2)。とくに,知能停滞に対する内分泌学的基礎による理解は,Eayrsら2)〜5)によって主として形態学的な観点から検討された。その結果,甲状腺欠除で,神経細胞体の縮小,樹状突起や軸索の減小,ミエリン形成不全などが知能停滞に伴って出現することが指摘されるに至った。
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