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2004年の敬老の日,とうとうわが国の人口の約5分の1が65歳以上の高齢者になったとの報道がなされた。筆者が未だ少年時代であった昭和25年における65歳以上の高齢者人口は,わずか5%でしかなかった。昭和30年代に入ってから,それまでほとんど一定だった高齢者人口は徐々に増加し始め,わずか50年ほどの間に4倍にも増えてしまったのである。これは,わが国における医療政策の成功を意味している。医療技術の発展によって多くの病気が治療可能となり,直接死因となる病気が激減したことは,医療の一つの勝利である。乳幼児死亡率が激減し,また成人病検診の普及によって,かってはわが国の国民病とまで言われた胃がんによる死亡が減少したこと,あるいは生活習慣の改善と高血圧の治療の成功による,致死的脳卒中の予防が効を奏したことなど,予防医学的な成功による面も大きいし,また一方では,国民皆保険制度という,国民全てにわたる医療資源の平等な分配原理の円滑な運用,という社会制度によって得られた部分も極めて大きい。
これらの政策の総合的成果の一つが,わが国の高齢者人口の膨大な増加の一因である。その意味では,これらの政策は,目的とするところを実現しており,その意味では大いなる成功と言うべきであろう。しかしその反面,予期せぬ出来事,すなわち今日,アルツハイマー病と総称されている,大脳皮質の変性を主体とする疾患の増加,という新たな問題が発生した。Alois Alzheimerが後に彼の名を冠されることになる疾患を記載した時,彼はその病気が高齢者ではなく初老期,すなわち中年期の特殊な病気であるとして報告したのであり,それが今日の最も一般的な加齢に伴う病気であるということを知ったなら,さだめし驚くことだろう。
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