シネマ解題 映画は楽しい考える糧[93]
「インサイダー」
浅井 篤
1
1東北大学大学院医学系研究科社会医学講座医療倫理学分野
pp.304
発行日 2015年3月15日
Published Date 2015/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429200167
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個人の内部告発に関わる責任とジレンマ,そして企業倫理は?
今までプライバシーや守秘義務,警告義務に関わる作品群を取り上げてきました.フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督『善き人のためのソナタ』(2006年,ドイツ)では監視社会の恐ろしさを,ウイリアム・フリードキン監督『エクソシスト』(1973年,米国)では医療専門職および聖職者の守秘義務と警告義務に焦点を当てました.アンドリュー・ニコル監督の『ガタカ』(1997年,米国)では,究極のプライバシーである遺伝子がいとも簡単に明らかになり,ありとあらゆる生活の側面で瞬時に用いられる反ユートピア社会が描かれていました.
本作では秘密を守る義務を優先すべきか,公益のために秘密を社会に対して公表する内部告発,最近は公益通報と呼ばれる行為を行うべきかの間で揺れる人々の激しい葛藤が,真正面からじっくり描かれます.アル・パチーノとラッセル・クロウという二大名優が繰り広げる重厚でサスペンスに溢れた2時間40分.私が知る限り「内部告発もの」では一番でしょう.人間の暗黒面も嫌というほど見ることができます.米国がいかに歪んだ訴訟社会であるかも垣間見ることができるでしょう.法によって正義が攻撃される,なんでもありの社会です.
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