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はじめに
神経障害性疼痛は,神経系の損傷や機能不全により発症する難治性疼痛で,触覚刺激で激烈な痛みを誘発するアロディニア(allodynia;異痛症)や疼痛過敏,自発痛が特徴的である。モデル動物では,一次求心性感覚ニューロンすなわち後根神経節ニューロンを含む末梢神経をさまざまな方法で傷害することによりアロディニアを引き起こす。このとき,末梢神経損傷後に,一次感覚ニューロンとともに,脊髄後角二次ニューロンでは,さまざまな遺伝子発現や蛋白質修飾が起こり,痛み情報伝達や神経回路に可塑的な変化が生じる。
例えば,脊髄後角ニューロンの興奮を担う興奮性アミノ酸受容体のNMDA受容体は,Srcファミリーチロシンキナーゼ(SrcやFyn)1,2),プロテインキナーゼA(PKA)やプロテインキナーゼC(PKC)3)によってリン酸化修飾を受け,受容体機能やシナプス肥厚部での分布などに変化が起こり,末梢からの入力に対する脊髄後角ニューロンの感受性増加に重要な役割を果たす。さらに,末梢神経障害後10日目には,脊髄後角ニューロンでナトリウムチャネルNav 1.3の発現が新たに誘導され,皮膚へのブラシ刺激でさえもニューロンに過活動を引き起こすという現象がみられる4)。
一方,GABAについては,その合成酵素であるGADやGABAニューロンそのものが,神経損傷後に減少し,脊髄ニューロンの活動性が亢進することも報告されている5,6)。また,オピオイドペプチドであるダイノルフィンAが神経損傷後に脊髄後角ニューロンに発現誘導され,一次求心性線維中枢端のブラジキニン受容体を活性化してCGRP(calcitonin gene-related peptide)を放出し,アロディニアに関与していることも報告されている7,8)。さらに,脊髄後角二次ニューロンにおいて,神経損傷後にクロライドイオンの汲み出しポンプであるK+-Cl- cotransporter 2(KCC2)の細胞膜上での発現が急速に低下し,陰イオンに対する逆転電位(Eanion)が脱分極側へシフトすることが報告され,神経障害性疼痛との密接な関連が示唆された9)。
このように神経損傷後に引き起こされる脊髄後角二次ニューロンの変化はさまざまであるが,最近,筆者らの発見が契機となり,脊髄活性化グリアと神経障害性疼痛の関係が注目を浴びている。特に,脳脊髄では免疫に関与しているとされるミクログリアと神経障害性疼痛との関係は非常に重要であることが多くの研究により明らかとなってきた。また,脊髄では末梢神経損傷後にアストロサイトも活性化され,神経障害性疼痛との関連が示唆されている。そこで本稿では,ミクログリアおよびアストロサイトと神経障害性疼痛発症の関係について述べる。
Abstract
Neuropathic pain is often a consequence of nerve injury due to surgery, cancer, bone compression, diabetes, or infection. This type of pain can be so severe that even the slightest touch can cause intense pain in the affected area. Neuropathic pain is generally resistant to currently available treatments. Abundant evidence in the literature suggests that activated microglia and astrocytes are key players in neuropathic pain and that ATP receptors expressed in the glia have an important role in pain signaling. In this review, we summarize the roles of the microglia in the functioning of ATP receptors and of the astrocytes in neuropathic pain. Understanding the key functions of the microglia and astrocytes may lead to the development of new strategies for the management of intractable chronic pain.
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