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はじめに―評価スケールを用いる意義
アルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)を含めた認知症を診断するためには,患者の行動に関する多面的な検討が必要である。総合的な診断のための最も重要な検討項目は,詳細に病歴を調査し,画像所見との整合性を吟味することだが,その一方で症候の程度は客観的な指標により吟味されるべきである。
患者やその家族からの訴えは主観的および実際上の問題として重要だが,得られる表現が一般的である以上,診断のためのデータとしては曖昧な部分がある。また,症状のパターンにも個人差があり,どの障害が強く現れるかという症状の程度や,その現れる順番は個人により異なる。聴取されるエピソードはこうした個人により異なる症状が複合的に組み合わさった混合物であり,訴えとして現れた症状がどのような機能不全であるかについては診断時に注意を要する。よって,問診に加え適切な評価スケールを組み合わせて用いることは,あらかじめまとまった機能について狙いを定めて検討を行うことができるという意味で重要である。特にADでは,障害される認知機能に見当をつけやすく,またそれに特化した認知機能検査も比較的多く開発されているため,診断に評価スケールを用いることは有用と思われる。
ADで起こる機能不全はある傾向を持っており,まず両側海馬萎縮による健忘が重要である。それに加え,側頭葉や頭頂葉領域の機能不全が生じる。具体的には,記憶,構成,着衣,方向感覚,視空間能力などの機能について障害が生じる。こうした機能についてそれぞれ感度の高い検査を用いることにより,患者側からのエピソード聴取のみでは検出しきれない機能不全が捉えられる。こうした利点は,患者や家族が気がつかない早期の認知機能障害を捉えることもできるという意味で重要である。
現在,ADに対して用いられる評価スケールには2種類の性質のものがある(Fig.)。1つは,いわゆる心理検査法により特定の認知機能障害を検出するものである。もう1つは,患者の行動そのものを総体として評価するものであり,認知症の結果として現れた行動異常のアセスメントに有用である。前者では想定した機能モジュールについて焦点を当てた検討を行うことができる反面,それ以外の側面については評価できない。また後者では,患者の生活上の総合的な能力について大方の部分を知ることができる一方,その結果をもたらしている具体的な機能不全については必ずしも明らかにならない。よって,診断を行う際には両者を組み合わせることで,総合的な認知症症状の洗い出しが可能となる。本稿では認知機能評価法と行動評価法とについて,現在用いられている中でもポピュラーなものを紹介する。
Abstract
Comprehensive examination is required to make an accurate and effective diagnosis of dementia associated with Alzheimer disease. Cognitive tests and psychological scales are useful for the objectively evaluation of symptoms that may not be completely revealed by the patient's medical history. The pattern and degree of the cognitive symptoms differ between individuals. The methods for evaluating the cognitive abilities of Alzheimer's patients can be divided into 2 categories. The first consists of cognitive tests that examine a certain aspect of cognitive function. The second consists of behavioral assessments that evaluate overall patient behavior. Cognitive tests specifically assess the domain of cognitive function,but their scope may be too narrow. Memory and visuospatial ability tests are useful and important for assessing Alzheimer patients. Behavioral assessments can evaluate the general condition of the patients,but there is a possibility of observer bias. Since Alzheimer disease has a prolonged course and is characterized by general changes,the concomitant use of cognitive tests and behavioral assessments is important for long-term assessment.
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