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はじめに
傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome:PNS)とは,腫瘍細胞の直接浸潤やそれに伴う感染,虚血,代謝異常などの機序によらないもの,いわゆるremote effectによる神経障害の総称であり,通常,免疫学的機序による発症機転が示唆されている1,2)。発症頻度は,PNSの明確な診断が困難な例もあることから正確には特定しがたい。全癌患者における発症率は0.01%以下であるとの報告3)がある一方,癌の全経過では0.5~1%に認められるとの記載4)もあり,必ずしも稀な疾患とは言い切れない。今後,診断の精度が上がるにつれて,さらに頻度が高くなる可能性もある。PNSでは神経系のあらゆる部位が標的となり得る。疾患によっては,中枢神経,末梢神経など複数の部位に障害が認められることもあるが,その中で末梢神経は障害される頻度も高く重要な標的部位である。なお,本稿に与えられたタイトルはニューロパチーであり,厳密には後根神経節細胞や脊髄前角細胞を含まないと言う考え方もあるが,広く末梢神経系の障害と言う意味で,これらの障害も含めて論ずる。PNSの発症に関わる免疫学的機序には,いまだ不明の部分も多く,PNSが疑われるすべての症例においてクリアカットに解明されているわけではない。近年,ヨーロッパ神経学会(EFNS)とParaneoplastic Neurological Syndrome Euronetwork(PNS Euronetwork)の合同task forceによって診断基準や診断ガイドラインが発表され,系統的な診断アプローチが提案されている(Table1)5,6)。診断にあたっては,癌細胞に感作され,神経細胞に作用する抗体(onconeuronal antibody:本邦では単に抗神経抗体と称されることが多い)の存在が重要視され,末梢神経障害をきたす抗体もこれまでにさまざまなタイプが報告されている(Table2)。ただ,自己抗体と病型が強い関連を示す例がある一方で,自己抗体が証明されない例,あるいは抗核抗体など非特異的な抗体は検出されるものの,抗体と疾患との特異的関連性が証明されない例なども存在する。本稿では,上記の診断ガイドラインを参考にしながら,PNSによる末梢神経障害を以下のように3種類に大別して考えてみたい。第1はいわゆるclassical syndromeと呼ばれる疾患である。腫瘍細胞が抗原提示的に作用し,感作された免疫担当細胞が産生した抗体(onconeuronal antibody)が,腫瘍細胞だけではなく,神経細胞にも障害性に作用するものであるが,その中でも臨床像が均一であり,出現する抗神経抗体も一定の傾向を示すものである。このタイプの末梢神経障害で初めて報告されたのは1948年にDenny-Brownによる亜急性感覚性ニューロノパチー7)であり,PNSによる末梢神経障害の中核となる疾患である。抗Hu抗体もしくは抗CV-2/CRMP5抗体が検出されることが多く,臨床像も比較的homogeneousである。また,chronic gastrointestinal pseudo-obstructionと呼ばれる消化管の自律神経障害をきたす疾患も同様の抗体の検出傾向を示し,感覚性ニューロノパチーを合併し両者の特徴を併せ持つ例もあることから,同じclassical syndromeに含められている。これらは,Table1では下線で示している。第2のタイプとしては,classical syndromeに比べて臨床像がheterogeneousであり,onconeuronal antibodyも検出されないか,検出されても疾患特異性が確立していないものである。発症形式は急性から慢性までさまざまであり,ニューロパチーとしての臨床病型もバラエティに富む。上述の診断基準ではnon-classical syndromeと記載され,Table1で下線のない疾患が該当する。しかし,腫瘍細胞に対する免疫が神経系に障害的に作用する点においてはclassical syndromeと共通した発症機序が存在すると考えられる。このような例では,未知の抗体が関与する可能性,非特異的な抗体であってもなんらかのかたちで病態に関与する可能性,細胞性免疫が中心的な役割を果たしている可能性などが考えられる。第3のタイプは造血器腫瘍,あるいは造血器腫瘍類似の病態に関連して生じる疾患である。造血器腫瘍に伴うPNSでもHodgkin病や一部のリンパ腫のように,上述の第2のタイプと同様の機序が推定される例もあるが,本稿では抗体産生に関わるB細胞リンパ球あるいは形質細胞系の腫瘍,もしくはそれに準じる病態で,paraproteinemiaに伴って生じるニューロパチーに注目して取り上げたい。本疾患では,腫瘍細胞が末梢神経の構成物に作用する抗体を単クローン性に産生し障害する機序が想定されている。また,抗体による直接障害は証明されていないが,単クローン性免疫グロブリンの存在と種々の生体内因子が臓器障害を引き起こすCrow-Fukase症候群もこのタイプに含めてよいかもしれない。本稿ではまず,上述した第1,第2のタイプについて,各臨床病型の特徴と腫瘍,抗神経抗体との関連を述べていきたい。また,第3のタイプは傍腫瘍性神経症候群に含めない考え方もあるが,これらの単クローン性免疫グロブリン異常に伴う病型についても最近の知見を交えながら解説したい。なお,Crow-Fukase症候群に関しては,本特集では別項目として取り上げられているので,本項では割愛する。
Abstract
Paraneoplastic neurological syndromes (PNSs) are the remote effects of cancer on the nervous system. The peripheral nervous system is an important targets of PNS. The neuropathies associated with PNS are reviewed in this article. Among the various paraneoplastic neuropathies, the main classical syndorome of PNS is subacute sensory neuronopathy that involves the cell bodies of sensory neurons in the dorsal root ganglia. Its clinical symptoms include sensory ataxia. Onconeuronal antibodies such as anti-Hu and anti-CV2/CRMP5 antibodies are frequently associated with this syndrome. In contrast to this classical form of PNS, non-classical syndromes are considered as heterogeneous neuropathies. The clinical features of non-classical syndromes are variable and no evident association between a clinical phenotype and onconeuronal antibodies has been established. Early detection and treatment of cancer is an essential for management of PNS.
Neuropathies with paraproteinemia are also important clinical entities of PNS. IgM M-protein is most likely to cause neuropathy. Patients with IgM paraproteinemic neuropathy is usually characterized by predominan distal and sensory impairment,prolonged distal motor latencies in nerve conduction studies,and the presence of anti-MAG and SGPG antibodies.
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