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はじめに
中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は中枢神経系に原発する節外性非ホジキン型リンパ腫で,多くはB細胞リンパ腫である。PCNSLは原発性脳腫瘍の3~5%の発生率であると報告されているが1),その頻度は最近増加している2-4)。その増加は,最近のMRIをはじめとする画像診断技術の進歩などだけでは説明できないと考えられている4)。PCNSLはあらゆる年齢層に発生するが,50~60歳代に好発し,その男女比は1.5と報告されている5)。症状は局所神経脱落症状,精神障害,頭蓋内圧亢進症状が主なものであるが,脳炎や脳卒中様発作あるいは脳神経麻痺などで発症することもある。特徴的な画像所見は単純CTでは等~高吸収値を示すことが多く,均一な増強効果と脳梁,基底核,視床などに及ぶ脳室周囲の病変であり,内部に壊死による低吸収域を含むことが少ないのも他の腫瘍との鑑別に役立つ。拡散強調MRI画像およびMR-spectroscopyでの代謝亢進6),IMP(N-isopropyl-p-[123I]-iodoamphetamine)SPECT画像での取り込み亢進7)なども特徴的な所見として考えられている。腫瘍は多発性で,テント上に発生する場合が多い。PCNSLの多くは脳に原発するが,眼球内あるいは脊髄にも併発することがしばしば経験される。中枢神経系原発であることの証明には他臓器病変の存在が否定されることが必要である。一般的にはsystemic lymphomaの脳実質への転移は稀で,逆にPCNSLの他臓器転移も少ない。ステロイドホルモンは40~85%の症例で一時的な腫瘍退縮を生ずる8)。病理組織学的診断が必要であるが,免疫グロブリン重鎖遺伝子の再構成をDNAレベルで診断することも有用と考えられている9)。多くのPCNSLはREAL分類のび漫性大細胞B細胞リンパ腫の組織型である10)。
大量methotrexate(HD-MTX)療法はPCNSLに対する最も有効な化学療法であると広く認められている。HD-MTX療法あるいはHD-MTXを基本とした多剤併用化学療法と放射線療法の併用で25~51カ月の生存期間が得られると報告されており11-16),HD-MTXを中心とした放射線化学療法が現在ではPCNSLの標準的治療法として広く行われている。しかしながら,晩期の高次脳機能障害によるquality of life(QOL)の低下は大きな問題である17)。一方,高次脳機能は化学療法単独で保存されるため,化学療法で寛解に持ち込めた場合,放射線療法は腫瘍の再発時まで待つべきであるという多くの報告が認められるようになった18-22)。
しかしながら,PCNSLの10~35%の症例ではHD-MTXに対して抵抗性であり,一方初期治療に成功しても35~60%の患者が再発をきたす23,24)。また5年生存者の半数以上が5~13年の間に再発するとされている25)。このため治療不応性ないし再発腫瘍をいかに治療するのかは極めて重要な問題である24)。標準治療抵抗性例の治療は難しい問題を含んでいるが,化学療法に反応し,生存期間の延長が得られる場合があるとされている。Reniら24)はメタアナリシスの結果,①1年以上の遅発再発例では1年以下の早期再発例と比較して,長期の生存期間が期待できる。②再発時無治療では2カ月の生存期間に過ぎないのに対して,再発時治療を加えることにより14カ月の生存期間延長が得られるとしている。現状では,再発時の標準治療が存在するわけではなく,今後の新規抗癌剤,分子標的薬の開発がさらに期待される。本論文では,実地臨床において,初期治療不応・再発例に対してどのような薬物療法が行われているのか文献的に考察する。
Abstract
Primary central nervous system lymphoma (PCNSL) is a non-Hodgkin's lymphoma arising in the central nervous system. Combined irradition and methotrexate-based chemotherapy is the standard of care treatment for PCNSL. The median overall survival achieved with this therapy is 25 to 51 months. Failure after first-line treatment has been reported in most patients with PCNSL. Salvage therapy is known to improve outcome, and although many different treatment modes have been attempted the optimal treatment schedule remains to be determined. This review analyses the efficacy of salvage therapy by focusing on data obtained from reports reporting on salvage therapy. Well-designed, randomized trials will help clarify issues such as the best chemotherapy regimen for second-line treatment. (Received: February 24,2009,Accepted: May 7,2009)
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