忘れられない患者さん
腎症に気がつかなかったK・Tさん
竹澤 直美
1
1土井内科
pp.66
発行日 2003年1月15日
Published Date 2003/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1415100361
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K・Tさんは59歳,1999年に知人の紹介で当院受診となりました.問診票は緑内障・硝子体出血・数回の光凝固など,眼の合併症の話で記載が埋まり,合併症は相当進行しているものと思われましたが,不思議と腎臓の話は出てきませんでした.血液検査の結果HbA1Cは7.4%でしたが,すでに貧血と下腿に浮腫を認めていました.しかし,腎症に対する知識は全くありませんでした.糖尿病と診断されて33年になりますがHbA1Cや血糖値が目標値に達すると治療を中断し,自覚症状が現れると治療を再開し,その都度医療機関を変えていました.当院での治療は合併症進行における精神的なケアを心掛け,栄養指導は尿中蛋白漏出も考慮したうえで1日の蛋白摂取量1 g/体重/kg,塩分8 gを指導の柱としました.ここまで悪くなったのは自分の責任であると反省され,指導に対しては優等生なのですが,実生活はまったく異なっていました.血中クレアチニン値は上昇,下腿の浮腫も増大していきました.眼底出血を繰り返し視力も低下しました.やがて家族からも見放される存在になりましたが,私たちにはそんな素振りも見せず強がりさえおっしゃっていました.当院に受診されて2年後には血中クレアチニン3.2 mg/dL,BUN 40 mg/dLと上昇し,透析を視野に入れて転医されました.
この患者さんを思い返しますと,初期の段階から治療を継続され,病気に対する知識や心構えなどを教わっていたら,このような状態は防ぐことができたのではと思われます.このような患者さんが世の中にはまだまだたくさんいらっしゃると思いますとぞっとします.
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