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Case
カンファレンスを契機に家族の事情が浮き彫りになり,治療方針に影響を与えた1例
患者:92歳,女性.
病歴:認知症,脳梗塞後遺症で寝たきり.加齢による全身状態低下も加わり,徐々に食事摂取量が低下していた.ある日,突然38℃台の発熱があり往診.誤嚥性肺炎と尿路感染の合併が疑われた.同居の夫と娘は,最期まで在宅で苦痛なく過ごさせることを希望した.少量の補液と抗菌薬による治療を開始.それまで週2回だった訪問看護利用を毎日に増やし,日々の状態変化を細かくクリニックに報告してもらった.治療の効果なく,徐々に全身状態悪化.尿量も低下し,予後数日と思われた.夫と娘に最期が近いことを説明し,このまま在宅看取りの方針を再確認した.訪問後の夜中に娘からクリニックに「やはり母を入院させたい」と電話があった.翌朝往診すると,本人の状態に大きな変わりなかったが,娘から「母はよくなっている.入院してさらに治療すれば,以前の元気な母に戻るのではないか」との訴えがあった.今までにない娘の反応に違和感を覚えたため,急遽,クリニック医師,看護師,ケアマネジャー,訪問看護師で多職種カンファレンスを開いた.ケアマネジャーによると,娘はもともと理解力不足なところがあり,また,かなり不安になりやすい性格とのことだった.毎日入っている訪問看護師からは,「娘さんは,今まであまりお母さん孝行をできなかったという思いがあるため,もう一度よくなってもらって親孝行したいという気持ちがあるようです」との報告があった.
それぞれの情報を総合的に判断し,またその後,家族も交えて話し合いを行った.今から入院しても回復の可能性は低いこと,寝たきりの本人を自宅で一生懸命看ていることが,十分親孝行になっていることを在宅スタッフから家族に伝えたところ,やはり家族の希望は本人が最期まで自宅で苦痛なく過ごすことであるという結論に達し,このまま在宅看取りの方針となった.
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