シネマ解題 映画は楽しい考える糧[48]
「生きる」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.531
発行日 2011年6月15日
Published Date 2011/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102218
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傑作のなかの「価値序列」を考える
「命短し恋せよ乙女」の台詞で有名な世界的傑作.映画評論家の山田宏一氏の解説によると「老いと死を見つめた映画史上の三大名作のひとつ」だそうです1).本コラムの4年目最後を飾る作品として,生命・医療倫理に関連する作品としてしばしば言及される定番『生きる』を取り上げましょう.執筆のために改めて鑑賞し,名作というものは観れば観るほど味が滲み出てくることを実感しました.少なくともよい映画は二回以上観ないと駄目ですね.題材として分析的に見始めても,やっぱり引き込まれ夢中にさせられてしまうのです.一度目よりも二度目のほうが感動する作品に出会えて幸運です.
物語はもうすでにご存じでしょう.30年間,波風立てないことだけを考えて,文字通りの「お役所」仕事をしてきた渡辺勘治が末期胃がんと診断され今までの自分の人生を見つめ直し,社会のために献身して死んでいくというお話ですね.黒澤明監督は「この映画の主人公は死に直面して,はじめて過去の自分の無意味な生き方に気がつく.いや,これまで自分がまるで生きてこなかったことに気がつくのである.そして,残された僅かな時間をあわてて,立派に生きようとする.僕は,この人間の軽薄から生まれた悲劇を,しみじみと描いてみたいのである」と述べています1).でも私は,自分なりに感じたことを少々批判的に書きたいと思います.
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