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緒 言
ジゴキシン,ワルファリン,リドカインなどの循環系薬物,アミノグリコシド系抗生物質,ジアゼパムその他のべンゾジアゼピン系鎮静抗不安薬,三環系抗うつ薬,その他の向精神病薬などによる重篤な副作用が,高齢者により多く発現してきた事実は,高齢患者に対する薬物の投与法に問題があることを示唆している.その主な原因の1つは,加齢に伴う薬物の体外排泄能(腎機能)の低下,およびその他の薬物動態要因(pharmacokinetic factors)である分布容積(量),肝代謝の変化にあると考えられている.したがって,高齢患者の薬物療法を行う場合には,青壮年者(成人)の投与量や投与間隔を変えて実施しなければならないことになる1, 2).投与量や投与間隔を調整するためには,臨床薬物動態理論の理解とその応用を必要とする.また,薬物はヒト生体内で固有の動態的特性を有しているから,加齢に伴う生理学的変動因子に応じて影響を受けるであろう動態的パラメーターが,個々の薬物でどのように変わるかをとらえて,それに応じた薬物投与計画を行うことが望ましい1, 2).
高齢者の薬物療法の注意点を臨床薬理学的見地から記述する前に,その概念を定義づけしておく必要がある.「薬物が高齢患者生体にどのような薬理効果をもたらすか」という概念を臨床薬力学(clinical pharmacodynamics)と定義する.一方,「高齢患者生体が薬物をどのように処理するか」という概念を臨床薬物動態学(clinical pharmacokinetics)と定義する1, 2).ここで定義した,薬物処方から治療効果発現に至るまでの臨床薬理学的2要因を考慮して,この相関をフローチャート的にまとめたものが図1である.よって,高齢患者群の副作用頻度が若年または青壮年患者群に比して高い原因としては,図1のいずれかの要因が関与することになる.
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