Japanese
English
綜説
膀胱発癌の生化学
The Biochemistry of Bladder Carcinogenesis
西村 隆一
1
Ryuichi Nishimura
1
1横浜市立大学医学部泌尿器科学教室
1Department of Urology, Yokohama City University School of Medicine
pp.405-415
発行日 1970年5月20日
Published Date 1970/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413200921
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緒言
人体の癌が外部からのある物質に原因するのではないかという考え方の代表的なものに約200年前Pott(1775)1)によつて報告された煙突掃除夫の陰嚢癌がある。Pottの報告は,その原因として"すす"という物質を考えたことは確かに重要な発見ではあるが"すす"の中のなにがすなわちその原因となる物質の化学構造は判明し得なかつたのである。ところが,1895年ドイツのRehn2)により染料であるfuchsinの生産に従事する人々に膀胱癌の発生がみられるという報告において,Rehnはfuchsinの原料であるanilineが癌発生の原因ではないかと考えたのである。Rehnの報告はanilineという一種の芳香族アミンを,すなわちはじめて発癌を化学構造式の判明した物質との関係において研究する端緒となつた点,非常に偉大な発見といえるのである。そしてこのRehnの報告は職業性膀胱癌,実験的膀胱癌および自然発生性膀胱癌の生化学的研究を促進する結果となつたのである。それゆえ,膀胱癌の発生原因はひとの他の部位の癌よりも詳細に研究されているため泌尿器科医のみならず,癌疫学者,生化学者にとつても興味ある癌であるといえよう。
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