書評
「ナラティブ・メディスン―物語能力が医療を変える」―Rita Charon 著/斎藤清二,岸本寛史,宮田靖志,山本和利 訳
松村 真司
1
1松村医院
pp.383
発行日 2012年5月20日
Published Date 2012/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413102803
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中学・高校時代,通学時間が長かったこともあって往復の電車では本をよく読んだ。圧倒的に多かったのは当時人気のSF短編集や映画のノベライズ小説であった。国語教師でもあった高校の担任が,家庭訪問に来たときにそんな本ばかりがずらりと並んでいる私の本棚を一瞥して,そして言った。「こんな本は本ではない」。
それから数十年もたった今も,私はその言葉に決して同意はしない。なぜならば,彼が本ではない,と告げたさまざまなテクストたちはすべからく私を揺さぶり,その後の私と私の世界を形成したからである。読書という行為は,文字を介して,時間や空間,そして世界のすべての約束事さえも超えて他者の紡いだ物語に触れることであり,自己は形成されていくのである。
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