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I.はじめに
人の脂腺はholocrine glandsであつて,脂腺辺縁部の未分化脂腺細胞は脂腺中央部に移動していくとともに成熟分化し,脂質生成蓄積のためその大きさは数倍またはそれ以上に膨大し,排出管前部でついに自壊して皮脂となり排出管を通つて排出される。この間に,脂腺辺縁部にて未分化細胞の増殖がおこり,自壊排出される脂腺細胞の供給をなしている1)2)。それゆえ脂腺が正常の機能を営なんでいる時には自壊排出される脂腺細胞と未分化細胞の増殖の間には一定のバランスが保たれている1)。このため正常脂腺の大きさは部位によつてほぼ定まつている。また以上の点から脂腺の機能は,脂腺細胞のturn-over timeの遅速,脂腺辺縁部の未分化細胞の増殖度に大きく関係するといわれる。そのため脂腺の機能とその大きさについて古くから検討されて来たが,現在,人においても皮表皮脂量と脂腺の大きさは大体平行関係にあることが確められている3)4)5)。この際,脂腺の大きさを正確に知るためには連続切片によるquantitative planimetric studyが必要とされ4),われわれの行なっているthick sectionによる観察は推奨されるべきものと考えられる。しかし,このような方法をもつてしても,形態学的に大小の差異を比較検討することは,その差異が微小なうちはこれを識別することはかなり困難である。しかも鼠,二十日鼠などの脂腺と異なり,人の脂腺の場合は多腺葉性であるため,脂腺の機能を形態学的にのみとらえようとすることには限界がある。最近は皮脂の採取法,定量法に改善が加えられ生化学的皮脂生成量の測定により,一層確実に脂腺の機能を知ることができるようになつた5)6)。しかし,まだ毛孔より脂腺由来の皮脂そのものを採取することは困難であり,表皮由来の皮表脂質の混入は避けられない。このような現状から,脂腺の機能を確実に知ろうとするときは,形態学的変化の観察と皮表脂質の生化学的定量分析の併用が理想的である。
今回は脂腺機能に影響を及ぼす諸因子のうち,年令,性別,ホルモン,食餌,神経支配,毛周期が,脂腺機能すなわち脂腺の形態ならびに皮脂生成にいかなる変化を与えるかについて展望してみたい。
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