- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
皮膚病理組織学は,皮膚科学のなかでも根幹をなす分野の1つである.皮膚疾患を診断する際,まず肉眼的臨床所見をとり,それに基づき鑑別診断を考えた後,絞り込みにふさわしい検査を選択することになるが,そのなかで病理組織検査は最も重要である.西山茂夫先生1)によると,病理組織学的検査が行われるのは,①臨床診断が不明,あるいは不確実な場合,②臨床診断が明らかでも,その原因が不明の場合,③病変の広がりを確認する場合,④臨床診断は明らかで,治療のため対象病変を切除した場合,のいずれかである.臨床診断が困難であっても,病理組織像が決め手になった例は枚挙にいとまがない.また歴史的にも,記載皮膚科学に基づいた発疹学と皮膚病理組織学は車の両輪のように発展してきた.このような背景から,かつてわれわれの周りには都会でも田舎でも,あるいは施設の別にかかわらずいたるところに皮膚病理組織学に精通した先生がおられ,地域の病理検討会では白熱した討論が繰り広げられていた.病理標本を自分たちの教室で作製していた大昔はもちろんのこと,病院運営システムが変わり中央で一括して病理標本を作製し,一般(病院)病理医が公式なレポートを書く時代になっても,かつては皮膚科医が自ら採取した標本の病理組織を,自ら確かめ最終診断を下していた.ここには,一般病理医が必ずしも皮膚病理に精通していた訳ではないという事情もあったと思われる.
ところが現在はどうだろうか.さまざまな理由から,いつの間にか周りから皮膚病理の達人は消えていき,わずかに残る者も老境に達し,今や皮膚病理学者は絶滅危惧種である.若い皮膚科医の中には,一度も病理組織を見たことがない,あるいは診断依頼した病理医のレポートをそのまま鵜呑みにするという者もいると聞く.皮膚病理組織検査も,報告が自動的に届く他の一般検査と同列に位置づけられつつあるようだ.診断レポートを書く主体の一般(病院)病理医の場合,昔と変わらず皮膚病理に精通している人は僅少であるが,一方で日本でも米国並みに皮膚病理診断を生業とする方も増えてきており,そのような施設に依頼した場合,その病理診断に不安を感じる必要が少なくなったという背景があるかもしれない.
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.