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わが国における皮膚血管炎研究の第一人者である,川名誠司,陳科榮両巨頭の著書『皮膚血管炎』(医学書院)が刊行された.総論で疾患概念,病因・病態,病理組織のポイントを理解し,さらに各論で一次性血管炎疾患,二次性血管炎疾患,重要な鑑別疾患へと流れるような内容の展開で,手にした瞬間から一気呵成に読破してしまった.それだけ惹きつけられる魅力的な書である.それにしてもまず感じたのは,皮膚科学の中で皮膚血管炎は決してメジャーな領域ではないにもかかわらず,348頁にも及ぶ大著であり,それだけにかゆい所にまで手が届くように丁寧で,かつ最新の情報まで網羅した,皮膚科医のみならず内科医,病理医必携の書であるという点である.
私は,書店で医学書,特に臨床写真や病理組織写真が豊富に掲載されている本を選ぶ際に,まずはぱらぱらと頁をめくり,いかに美麗な写真が厳選されているかを吟味する.本書は臨床写真の明瞭さ,的確さはもちろんのこと,病理組織写真の美しさとバックの白抜けの良さに圧倒された.皮膚の血管炎ほど病理組織診断が重要な位置を占める疾患はない.皮膚病理組織学は何といっても「多数の標本を見てなんぼ」の世界であるが,その点で美しくかつ的確に病理組織学的所見が示された皮膚血管炎に関する書物を,私は他に知らない.私事で恐縮であるが,この度日本皮膚病理組織学会理事長を拝命して,あらためて若い医師の皮膚病理学教育について考えてみた.以前から皮膚病理学を志す若い医師が減少の一途をたどっていることに危機感を抱いてきたが,減少の理由の1つに,かつて周囲にたくさん居られた皮膚病理組織学に精通した皮膚科医が激減し,論議の対象になっている所見がどれであるかを若者に指摘できなくなったことが挙げられる.所見を把握できなくなると,全く面白くないわけである.臨床写真もそうであるが,本書の病理組織写真の1つ1つに丁寧な解説が加えてあり,このような若者でも本文を読まなくても十分に学習できる.特に入門者にとってありがたいのは,総論で皮膚の正常血管の解剖・組織学について,一般解剖学・組織学の教科書も足下に及ばないくらい懇切丁寧に解説している点である.さすが日常皮膚を精確に観察してきた皮膚科医の手による書である,と快哉を叫びたい.さらに,ある程度皮膚臨床を経験した者にとってありがたい点は,国際的な血管炎の定義や診断基準ではやや消化不良に陥りがちな“皮膚の”血管炎についての暫定診断の要点を示してくれている点であろう.実際大変役に立つのでぜひ目を通していただきたい.
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