- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
ここで言う「日帰り手術」を筆者は局所麻酔下で行うものとして話をすすめる。また「日帰り手術」でも,ファイバースコープを使ってモニターテレビを見ながら手術する方法,あるいは外来で顕微鏡下に行う方法もあるが,筆者が以下に述べるものは昔から行われた方法,つまり間接喉頭鏡で局所麻酔下に行うものであることをはじめにお断りしておく。また手術にいたるまでの保存的治療,および術後の声の管理,発声治療などについても誌面の関係で省略する。
筆者が過去約40年間に執刀した声帯ポリープの数は約2,000例,そのうち90%以上は局所麻酔で間接鏡下のものであり,その3分の2は声を職業とする人たちが対象である。
筆者がここまで局所麻酔の声帯ポリープ手術にのめり込んでしまった理由の1つは,恩師故切替一郎教授から与えられた筆者の学位論文のテーマが「声帯ポリープの二重声」に関するものであったことによる。昭和30年(1955年)頃からであるから,現在のような全身麻酔も,ラリンゴマイクロスコピーもなく,声帯ポリープの手術前後の音声比較が中心テーマであったので,東大の耳鼻科外来にきた声帯ポリープ患者のほとんどすべてを筆者のところに廻して貰い,手術,録音することになっていた。以来40年,論文完結後も先輩,同僚からの患者依頼も多く,難しい手術,危険な手術に挑戦するスリルと興味も加わり,私の声帯ポリープ手術は日常外来の一部になってしまった。
通常筆者は声帯ポリープの場合,大小にかかわらず基本的にはまず保存的治療を優先する。そして一定期間症状の経過をみたうえで手術的治療を選ぶか否かを決断する。結果的には90%以上が手術をすることにはなるが,保存的治療を優先する理由は,典型的なポリープでしかもかなり大きなものでも2〜3か月で完治した例が数%あるからである。しかもこの場合,特別厳重な発声制限もせず,平常通りの生活をしていてもである。さらにまた,後述のように他院から廻ってきた患者の手術による後遺症を数多くみていると,安易な手術の危険とこわさがよく分かるからである。そこで初診時所見のみですぐ手術を決めず,保存的治療をまず試みてからという順序をふんでいる。そのせいかどうか巷間筆者は手術が嫌いだという説があるそうである。何年か前のある学会のシンポジウムで,某大学の音声専門家の「声帯の出もの腫れものはすべて切る」という乱暴な発言を聴いていて慄然としたことがある。声帯ポリープ手術のこわさを知らない人の無責任な発言だと思う。
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.