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はじめに
メニエール病は反復性めまい発作,変動する感音難聴,耳鳴の三主徴と特発性リンパ水腫を特徴とする疾患である。その病因には諸説あり,いまだにその実態究明は解決していない。メニエール病の病理学知見のほとんどは病理解剖材料に由来している。病因の本体に迫るには生検材料での検索が不可欠だが,内耳のもつ解剖学的,生理学的特性のゆえに,今日でも満足な生検材料を得ることは極めて困難である。これまでの研究の成果では,反復性めまい発作の成立機序として,内リンパ水腫による内リンパ圧亢進や膜破裂あるいは膜透過性亢進が高カリウムを有する内リンパ液(中毒性の神経ブロックを引き起こすのに十分な量)を外リンパ腔へ流漏出させる結果,前庭神経線維の一過性のカリウム麻痺,末梢神経伝導阻害を引き起こし,めまい発作を誘発すると考えられている1,2)。一方,内リンパ水腫の発生機序としては,メニエール病罹患側の前庭導水管や内リンパ嚢の発育不全3)や内リンパ嚢の線維化4)が著明であることから,内リンパ嚢機能低下が内リンパ水腫の主成因であろうと考えられている。一般に奇形,発育不全,細菌およびウイルス性内耳炎,梅毒,血行不全,外傷,骨折,前庭導水管の閉塞,膠原病,免疫反応など様々な病変で内リンパ嚢の機能が低下し,メニエール病類似の症候が出現することが知られている。
メニエール病の内耳免疫傷害病因は,Quincke5)の提唱からすでに1世紀になる。この間,内耳免疫機構の解明,内耳免疫傷害の病態,内耳特異的抗原,抗体の検索など様々な課題が研究されてきた。特に1980年代に入ってからは,内耳の免疫学的知見が多数集積し,内耳免疫学としての項目が今日の米国医学成書に記載されるに至っている。1994年には遂に,病歴の明らかなメニエール病症例で手術摘出した完全な内リンパ管,内リンパ嚢組織像が明らかにされた6)。内リンパ嚢,内リンパ管はリンパ球を主とした活発な免疫反応像を呈しており,メニエール病の発症機序に免疫反応の関与を強く示唆するものであった。本稿では内耳免疫傷害病の概念とメニエール病との関連について述べることにする。
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