鏡下咡語
茂吉の葉書
鈴木 篤郎
pp.534-535
発行日 1992年7月20日
Published Date 1992/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411900566
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私が短歌に凝っていた頃,一度だけ斉藤茂吉氏より葉書を頂いたことがある。私が短歌に凝っていたなどと書いても,「まさか」と誰も信じてくれそうもないが,実は昭和11年の夏頃から約1年ちかくかなり熱心にやったことがある。
私は昭和9年の春,医学部入試合格の報をきくと同時に発病し,入院した。病気は重症の結核性腰椎カリエスで,腐骨の膿がももの付け根から流れ出ていた。その上,胸膜炎を併発し,一時は生死の境をさまよったが,運よく生き延びることができた。病床生活は昭和12年4月医学部に復学するまで,結局満3年続いたが,歌を始めたのはその終わりに近く,何とか健康を取り戻す自信がつきかけてからである。水瓶社という結社にはいって作歌の指導を受け,有名な歌人の歌集や歌論も読みあさった。しかし大学に戻って医学の勉強に興味が移るとともに,作歌の意欲は自然に消減し,結局ものにはならなかった。
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