- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
向精神薬(psychotropic)とは,中枢神経系に作用し,生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称である。抗精神病薬(antipsychotic),抗うつ薬(antidepressant),気分安定薬(mood stabilizer),精神刺激薬(stimulant),抗不安薬(anxiolytic),睡眠薬(hypnotic)のことである。このなかで耳鼻咽喉科で処方される頻度が高いものとして,睡眠薬,抗不安薬,抗うつ薬が挙げられる。本来,これらの薬剤が必要となる疾患は,不安障害,うつ病などの精神疾患である。これらの疾患を耳鼻咽喉科で診断・治療することはなく,精神科医に紹介することが多い。耳鼻咽喉科での適応は,実際には耳鼻咽喉科心身症である。
心身症とは「その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし,神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(1991年,日本心身医学会)と定義されている1,2)。耳鼻咽喉科の心身症として代表的なものには,めまい3),咽喉頭異常感症,耳鳴,アレルギー性鼻炎,嗄声,心因性難聴,顎関節症が挙げられる。耳鼻咽喉科を受診する心身症の割合は決して少なくない。総合病院の耳鼻咽喉科での心身症の割合は22.7%で,特に咽喉頭異常感や耳鳴,めまいを主訴とする場合には心身症の割合が高かったと報告されている4)。この割合は他科と比較しても低いものではない5〜7)。
ストレスの増加する現代において,ますます心身症患者の割合は増加することが予想される。本稿では,耳鼻咽喉科で用いられることの多い向精神薬と処方の実際を概説する8)。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.