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毎年ノーベル賞が発表される頃になると,真面目な研究であるのにもかかわらずどこかユーモラスな研究や開発に「イグノーベル賞(Ig Nobel Prize)」が贈られ,新聞に小さな記事が出る。わが国のこれまでの代表的な受賞研究には,“カラオケ”や“バウリンガル”の発明と,ハトもピカソやルノワールの絵を見分けることが可能であるという慶應義塾大学心理学科の渡辺 茂教授の研究がある。2011年度は化学賞にわさびのにおいで火災を知らせる「臭気発生装置」を開発した東京江東区の会社「シームス」が選ばれた。これは補聴器や人工内耳の装用者が寝ているときに火災を知らせるのにぴったりである。火災報知機が作動すると,わさびから抽出した成分を噴霧,眠っている聴覚障害者にも火災を気づかせる装置で,2009年に販売されたばかりである。委員会によると授賞理由は「火災やその他の緊急時,睡眠中の人を起こすのに理想的な空気中のわさびの濃度の決定およびわさび警報器発明への応用」で,実験では鼻づまりの人以外は1~2分で眼がさめることが確認されたという。
2011年9月29日に米国ボストンのハーバード大学で開かれた受賞式で,「シームス」の開発チームは「世界中の聴覚障害者に商品を知ってもらう良い機会である」と述べ,さらに「次は靴の不快なにおいを消すわさびスプレーを開発したい」と挨拶した。ハーバード大学の先生方はユーモアや機知に富んでいる。私の学んだ東京大学にはこの面が全く欠けているが日本の大学はどこも同じであろう。2011年度はほかに,医学生理学賞に「カメのあくびはうつらない」が選ばれた。物理学賞に「なぜ円盤投げでは目が回り,ハンマー投げでは目が回らないのか」が選ばれた。これは日本めまい平衡医学会の約40年の会員歴をもち,2006年には第65回学会長を担当し「めまいの構造」という著書まで出版した筆者としては,深い関心をもたざるを得ない。この論文を以下に紹介したい。
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