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Ⅰ はじめに
Bell麻痺やRamsay Hunt症候群における顔面神経麻痺の予後は急性期の麻痺の程度によってある程度予測が可能である。完全麻痺に陥らなければ後遺症をほとんど残さずに治癒する。逆に,発症急性期に完全麻痺に陥った場合には,拘縮,異常共同運動,ワニの涙などの後遺症が残る可能性が高くなる。しかし,たとえ完全麻痺に陥っても顔面神経の軸索変性はごく軽度にとどまっている症例がある。このような症例では麻痺の良好な改善が期待できる。ただし個々の完全麻痺症例においてどの程度の軸索変性が生じているのかを顔面運動の評価のみで決定することは難しい。
顔面神経麻痺症例に対する筋電図検査の目的は軸索変性の進行の速さとその程度を早期に知ることにある。その意義は麻痺が高度であればあるほど高く,特に完全麻痺症例では筋電図検査は必須といえる。筋電図検査によって高度または完全な軸索変性が生じる可能性が高いと判断された場合には速やかに適切な治療を行う必要がある。
本稿で取り上げるnerve excitability test(NET)とelectroneuronography(またはelectroneurography:ENoG),maximal stimulation test(MST),electromyography(EMG:いわゆる針筋電図)のうちの前3者はいずれも茎乳突孔付近で顔面神経を刺激し顔面表情筋の収縮の程度を観察・測定する検査である。Bell麻痺やRamsay Hunt症候群で軸索変性が生じる場合,変性ははまず側頭骨内で生じる。したがって変性が末しょうにおよびこれらの検査によって顔面神経の反応の低下・消失を検出できるようになるまでには発症から3日程度を要する。ENoGの原理を図1に,その限界を図2に示した1~3)。これらの原理はNETとMSTにも当てはまる。一方,針筋電図では顔面表情筋の自発運動時の活動電位の有無を確認することができる。しかし軸索変性が生じていなくても伝導障害があれば自発運動時の活動電位は減少または消失するため,やはり発症早期に軸索変性の有無やその程度を正確に知ることは難しい。
NET,ENoG,MSTなどのこのような問題点を克服するため,逆行性顔面神経誘発電位(antidromi facial nerve responseA)検査4~6)や磁気刺激(magnetic stimulation)検査7,8)などが一部の施設で試みられている。しかしまだ広く普及しているとはいえず,その意義も確立されていない。したがって本稿ではこれらの検査についてはいくつかの文献の紹介にとどめる。
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