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Ⅰ はじめに
頭頸部癌の治療において手術は大きな柱となるが,安全域をつけた広範囲切除が容易ではないこと,呼吸・嚥下・発声といった機能が密接に関与すること,整容面にも配慮が必要なことなどが問題として挙げられる。このように手術ついては制約が大きい一方で,頭頸部領域の悪性腫瘍には圧倒的に扁平上皮癌が多く,比較的良好な放射線感受性と化学療法に対する反応性が期待される。放射線治療技術の進歩,あるいは効果の高い抗癌剤が次々に臨床応用できるようになってきたことに伴い,特に進行期の頭頸部癌の症例では手術・放射線・化学療法を組み合わせて集学的に治療が行われている。しかしながら現在のところ,治療成績・機能温存のいずれの面においても必ずしも満足できる結果には至っていない。頭頸部癌は比較的数が少なく,症例によって進展様式がさまざまであることから,個々の治療法についていまだ確立しているとはいいがたく,治療成績向上のために施設によりさまざまな工夫が行われているのが現状と考えられる。
当施設では,頭頸部扁平上皮癌に対して,根治性を高めるため,および機能温存の可能性を追求するために原則として放射線治療を先行させている。反応が不十分であれば放射線治療を45Gyの術前照射にとどめ,その後粘膜炎などの回復を待って手術を行う。また,放射線に対する反応が良好であれば引き続き根治線量(70Gy程度)まで照射継続するという治療方針をとっている。これにより,たとえ進行癌の症例であっても機能温存が可能か見極めたうえで手術を決めることが理論上は可能である。しかし実際には,上咽頭癌のように放射線感受性がきわめて良好な例は例外としても,ほかの多くの頭頸部進行癌では原発部位の手術回避可能症例は必ずしも多くなく,放射線治療効果を高める補助療法の発展が待ち望まれているところである。
5-FU,CDDPなど,ある種の抗癌剤の併用によって放射線治療効果が高められることはよく知られている。また,頭頸部癌に対する放射線と化学療法の同時併用が機能温存および生存率向上に有効1,2)であるということも一定のコンセンサスが得られていると思われる。ただし,強力な多剤併用化学療法は一般に副作用も強く出ることが多く,放射線との同時併用ではさらにこれら副作用が増強されるため,治療の中断を余儀なくされることも稀ではない。また,当施設の方針のように,引き続き手術を念頭に治療を進めていく場合,あまりに強い副作用のために後の手術に支障をきたすような影響は避けなければならない。
このような要求を満たす治療法の1つとして,Komiyamaら3)によって提唱されたフルオロウラシル,ビタミンA併用放射線療法(FAR療法)が挙げられる。われわれの施設でも1988年以降,下咽頭癌を対象にFAR療法を行ってきた4)。この治療経験を生かし,さらなる治療成績の改善を目指して,5-FU製剤をテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1)に替えてTAR療法として臨床応用を開始した5)。TS-1は,近年,日本で開発されたピリミジン代謝拮抗剤であり,従来の同系統の薬剤に比べ,単剤として飛躍的に高い奏効率を有するとの評価が定まりつつある。われわれと同様の併用療法の取り組みは,FAR療法についても先駆的に取り組んでこられた九州大学のグループからの報告6)がみられるが,まだ,多くの施設で応用される段階には至っていない。本稿ではわれわれの限られた経験と理論的な背景について概説する。
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