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I.室内環境アレルゲンとしてのダニ
アレルギー疾患は環境的要因と遺伝的要因の相互作用によって発症する。アレルギー疾患の発症にかかわる環境的要因の中で最も重要なものは,環境中のアレルゲンへの曝露とそれに伴う感作である。近年,アレルギー疾患は飛躍的に増加しているが,それには現代の都市化された社会におけるヒトの生活様式の変化や,住宅構造の変化によってもたらされた室内環境アレルゲンの増加というものが密接に関わっている。特に問題となる室内環境アレルゲンとして,ダニ,ネコやイヌなどのペット,ゴキブリなどがあり,わが国を初めとする温暖,湿潤な気候の地域においては,室内塵中に生息するチリダニ科ヒョウヒダニ属の2種類のダニ,ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)とコナヒョウヒダニ(D. farinae)が最重要の室内環境アレルゲンとなる1)。室内塵への曝露がアレルギー疾患の原因になるということは200年以上も前から知られていたが,その室内塵アレルゲンの本態がヒョウヒダニであるということは,1960年代の後半にわが国のMiyamotoら2),オランダのVoorhorstら3)によって明らかにされた。
ダニとは分類学的には節足動物門,クモ型綱,ダニ目に属する8本足の生物で,地球上に3万種以上が生息していると考えられている。これらの中で室内環境アレルゲンとして問題になるダニは,チリダニ科のダニとコナダニ科,ニクダニ科のダニである。チリダニ科のダニは別名室内塵ダニ(house dust mites)といわれている。一方,コナダニ科,ニクダニ科のダニは穀物などの貯蔵庫で大量発生することから貯蔵庫ダニ(storage mites)と呼ばれている。コナダニ科,ニクダニ科のダニは,中南米などの熱帯,亜熱帯地方におけるネッタイタマニクダニ(Blomia tropicalis)のように,地域によっては室内環境アレルゲンとしてチリダニ科のダニ以上に重要になることもある。しかし,わが国ではコナダニ科,ニクダニ科のダニに対するIgE抗体の陽性率,抗体価はともにヒョウヒダニに比べるとはるかに低く(表1),わが国の一般家庭においては,コナダニ科,ニクダニ科のダニによるアレルギーが問題になることはほとんどない。すなわち,アレルゲンとしてはチリダニ科の2種類のヒョウヒダニだけを考えればよいということになる。
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