特集 聴力改善手術
10.聴覚大脳インプラントは可能か―聴皮質の解剖と電気生理の視点から
加我 君孝
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1東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
pp.194-200
発行日 2005年4月30日
Published Date 2005/4/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411100130
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Ⅰ.はじめに
聴覚大脳インプラントは,医学・工学の歴史の中ではいまだ存在せず,試みられてもいない。しかし盲者のための人工視覚の研究として,視覚大脳インプラントが網膜インプラントと同様に開発に挑戦されている(表1)1)。しかしまだ光覚が感じられる程度で,物の形や色までわかるほどではないようである。
一方,人工内耳は20世紀後半の生んだ最高の埋め込み型人工臓器という高い評価を受けている。実際,長い間聴覚を享受できないでいた中途失聴者が,術後1か月も経たないうちに聴覚を再獲得し,コミュニケーションが再び可能になったりする。先天性高度難聴児が,補聴器が全く効果がなかったり,あるいは聴き取りが悪いために,発声は構音やイントネーションが正しくなく,かつ言葉の数が著しく不足であったのが,2~3歳で人工内耳手術を受けるとその1~2年後には明瞭な発音とイントネーションを身につけ,言葉の数も著しく増加する。さらにNFⅡの患者では,両側聴神経腫瘍のために聾になった場合,脳幹の蝸牛神経核の表面に電極を移植する聴覚脳幹インプラント手術が行われ,大きな成果を上げている。筆者の所属する病院で行われたMED-EL社の聴覚脳幹インプラント手術後は,全くの聾の状態から図1に示すように再び聴覚を取り戻すことが可能となった。使用した電極は12チャンネルである(図2)。このように聴覚のインプラントは大きな成功を得ている。これに刺激され盲者のための視覚の再獲得のための人工視覚の開発に大きな研究費が投資されているが,まだまだ道は険しい。
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