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ある時,古くからの患者さんで古書店を経営している方が,小生のカルテの記載に,同じ書き癖の署名がある本がでたといいだしたのである。小生には昔から,本を購入するとその裏扉の左上に署名と購入した日と購入地点を小さく記入する癖があった。これも古い話であるが,40年ほど前に渡米するに際してわずかばかりの蔵書を処分したことがあった。学生時代に集めた明治から昭和の初期の文学書が主なものである。特に,同じ経歴の森鷗外の書物に重点を置いていた。今でもあるらしいが,古書会館で古書の市が開かれて個人も参加できたのである。学生時代には,暇があるとこの古書市に足を運びあれこれ集めていたのである。小生のカルテの書き癖を見抜いた書店主は,裏扉の署名からその本達が小生の旧蔵本であると推定したのである。信じられないことなので,次回の診察日に数冊のその本達を持参していただいた。さらに感激したことには,そのなかの1冊が「1961年5月15日購入」とある。今でも覚えているが,この日は小生の35回目の誕生日で,当時の状況では随分と思案して購入したものであった。古書店の主人が,これらを進呈するといってくれたので,辞退はしたもののつい手がでてしまう始末で,これらの本達は34年ぶりで旧所有者にもどったのである。
次はコピーを手にいれたことである。これも昔のことで30年ほど前のことであるが,Grazの故Messerklinger教授の教室に手術の見学のために2週間ほど滞在した折りのことである。教室の書庫には,19世紀から20世紀初頭の書物が目が眩むほどに収蔵されてあった。この書物庫には,長い間,みたくてもみられなかった本が沢山あり,そのなかの1冊にZuckerkandlの哺乳類の顔面の比較解剖書があった。随分と大きな本であったが無事にコピーできた。いまだに探しているが,現物は古本市にはでてこない。
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