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昭和40年代に入り,私達のERG研究室の整備が目標のレベルに近づいたころ,わが国の視覚生理学の分野では慶應大学の富田教授による視細胞,あるいは名古屋大学環研の御手洗教授による水平細胞のスペクトル反応に関する研究が格段の発展を遂げつつあった。それに関連する論文の勉強をさせてもらいながら,人眼の網膜からも類似の手法を用いてスペクトルERGがとれないものだろうかと考えるようになった。それには基礎医学関係の実験を一度見学したほうがよいだろうということになり,御手洗教授に連絡をとってみたところ快くお引き受け下さり,早速グループの数名が参上してコイ網膜の水平細胞からの反応の記録を見学させていただいた。刺激光は十数枚の干渉フィルターを保持する回転板によって与えられる単色光シリーズのスキャンニングで,それに対する一連のスペクトル反応が見事に連続記録されていくのを見て,臨床応用も可能に違いないというある程度の確信をもって戻ってきた。ただ私達の目標はヒトERGのスペクトル反応であるから反応速度の遅い冷血動物に対する装置をそのまま使うわけにはいかず,フィルターディスクの回転速度,シャッターの機構,明・暗順応法などいくつかの新たな工夫を加える必要があり,装置の完成にはかなりの時間を要した。そしてともかくも臨床検査としての応用が効くところまでなんとか漕ぎ着けたのは,昭和46年の初頭であった1)。その後7年間に得られた本検査ならではの成績をまとめて,昭和53年に京都国際会議場で開催された第23回国際眼科学会にてパネルで展示発表した(図1)2)。
まず基本となるのは,正常網膜のスペクトル感度曲線に一致するようなERG反応の自動記録である。そのディスプレイの写真がパネルの左側上段に掲示されており,繰り返し照射される16単色光に対するERGのうち,b波の部分だけが選択的に加算されていく時限走査法が説明されている。そして最終的なディスプレイではb、波またはbp波の波長特性を示すパターンが自動的に表示されるわけである。この手法は単に網膜の分光特性を他覚的に捉えるというだけでなく,秤体系あるいは錐体系の反応の特色をワンカットで提示するパターンディスプレイである点が臨床的な面からもきわめて魅力的であった。
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