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私が文部省短期海外留学生として欧米に出張を命ぜられたのは1972(昭和47)年の夏であったが,当時の欧米では網膜症の分類など問題にしている研究者はほとんどいなかった。「網膜症には,単純と増殖の2型があれば,臨床上何も不自由はない」というのが彼らの意見だった。一方,10年ばかり前まで,わが国で最も普及していた網膜症の分類法はScott分類(1953-1957)で,京都府立医大の谷教授が留学土産に英国から持ち帰ったものであり,眼科の研究会でそれまで普及していたWagener分類(1946)よりは進歩的なものとして,わが国ではこれを全国的に使用することを申し合わせたものである。しかし,私が出張したときもこれが欧米で普及している様子はなく,英国内でも統一されてはいなかった。むしろ眼底写真の比較により,眼底所見別の重症度を羅列するHammersmith分類(1967),Airlie分類(1968)などが新しい分類として注目されはじめていた。
Scott分類の当初の基本概念には,単純網膜症と増殖網膜症とは別個に発症し,互いの移行などはあり得ないということがあったらしく,どんなものが増殖網膜症の初期(Ⅰb期)であるのかわからなかった。1968(昭和43)年に「これこそ典型的なScottⅠb期ですよ」とのちに学会発表の折に谷先生からお言葉を戴いた症例(図1)に遭遇してから,私は,網膜症には単純,増殖相互の移行もあるのではないかと疑う気分が強くなった。ちょうど学園紛争の最中で,大学病院内科への入院,治療も大変なころだった。この症例は,過去に単純網膜症(Ⅱa)であったという既往歴もあった。その後も類似の増悪例を他に数例経験して,これはいよいよ怪しいと考えた。
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