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先に,教育の場での忍耐について触れたが,診療の場でも忍耐の一語に尽きる場面が増えてきたような気がする。患者さんが患者様と呼ばれる時代になって,医療を受ける側の患者が弱く,医療を行う側の医師,あるいは施設が決して強い立場ではなくなっている。しかし,これまで,医療従事者は,患者側の訴えや言い分に十分耳を傾けてはいたと思う。患者さんは,特に重篤な状態が急に起こった時には気持ちの整理が出来ていないことが多いので,訴えを整理しながら聞かねばならない。この場合,患者さんの話を決して制してはいけない。根気よく聞き取ることになる。紹介患者さんは,紹介状により病歴をほぼ把握できるが,前医でどのような説明を受けたのか,患者さんの言葉で話してもらうとその理解度を知ることができ,さらに詳細な病歴が得られ,その後の医療を進める上で有益である。しかし,高齢の患者さんが多くなり,病歴聴取は忍耐の一語に尽きる場面が少なくない。限られた診療時間内でのことで,医師側にもいらいらが出てくるが,“ひと呼吸おいて”病歴聴取を継続する。とにかく“納得のいく医療を受けていただければ”という思いに徹する。
つくば市は,研究学園都市として知られてきた。今もその色彩は強く,新しい住民には研究・教育職とその関係者が多い。今はインターネットで個人でもたくさんの情報を得ることができる。患者さんと家族は,病気についてたくさんの情報を引き出してきて,受診されることも少なくない。それゆえ,担当医としてもそれらをもとに発せられる質問にも答えてあげねばならない。医療職以外の方々にもわかるように,一般向けに話をするのには,結構な時間を割かねばならず,時にはうんざりすることもある。このような場面でも,“ひと呼吸おいて”気持ちを和らげ,穏やかな語調で再び話を始めることにしている。話の内容にどんなに不快になっても,一つ深呼吸をして,わずかの間をとると新しい気分になれ,やさしい目にもなれる。
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