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1996(平成8)年5月に,日本眼科学会百周年総会が京都で開催された時の最新の器械展示は,まことに壮観であった。しかし,それに劣らず参加者の注目を集めたのは,同時に開催された歴史資料展で,全国から集められた貴重な資料の中に,多くの検査機器もあって,その歴史的な発展を目のあたりにした感動は今も記憶に新しい。それらを見ても,眼科学の進歩とともに検査機器も改良されてきたことがわかるが,とくに,戦後の経済復興とともに,欧米の機器の輸入に始まって,国産品の品質も向上してゆき,さらに健康保険制度の普及によって,医療現場へと拡散していったことは衆知の通りである。とくに近年の急速な進歩は,コンピュータの組み込みや,光学技術の改良や,レーザーの普及などが基礎となっている。しかし一方では,あまりにも急速な進歩によって,最新の機器でないと検査ができないような錯覚にも陥り,従来の手工業的な機器や,それらを扱う技術が忘れられたり,検査の原理が忘れられたりすることも見られた。例えば急速に普及したノンコンタクトトノメータ(NCT)では,それが圧平式眼圧計で,圧搾空気を吹きつける時間を測っていることの誤差に考慮せずに,高コストの機器だから精度も高いと思うようなことである。ちなみに,このNCTは,その普及度の高さのゆえに検査点数が下がった珍しい例である。
1997(平成9)年の大阪府眼科医会会報136号の『視線』のコーナーで,私は,『板付きレンズが消える?』と題した論説を辞いた。それは,1997年3月で,水尾式(阪大式)板付きレンズの生産が中止されたことをとりあげて,この簡便で合理的な機器が,その利用度の低さのゆえに生産中止になったことへの危惧を呈示した。これに対しては,湖崎 克,楠 研二先生らの共感の寄稿が次号に寄せられた他に,他府県からも,驚いたという反響があった。その時に,私の提起した他の疑問は,屈折や調節の健康保険点数が約20年間も変えられず,検査に要する人件費のことを考えると実質低下したことである。検査点数の下がるようなもので,人手を要することに熱意が薄らぐのは仕方ない点もあるが,人間の自覚的検査が少なくない眼科では,すべてを機械化できにくく,相手の応答に配慮しながら,臨機応変に検査をする部分はどうしても残るであろう。眼科の検査点数は有利であるように言われていたが,検血やCTのように高度に機械化されたものではない人間くさい検査の点数評価は容易なものではない。屈折調節検査のように20年間も改善されないとか,眼底検査のように,内科医が直像鏡でのぞいた時も,網膜剥離の術前検査をした眼科医の点数も,同じく56点などというのは容認できないことである。
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