眼科検査法についての私の考え
ERG検査と詐盲
小口 芳久
1
1慶應義塾大学医学部眼科学教室
pp.132
発行日 1998年10月20日
Published Date 1998/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410906088
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私が医学部の学生時代に,相澤豊三先生という神経内科の教授が「患者を診察する時の心得として,患者が診察室に入ってきて,出て行くまでの行動を注意深く見なさい。私の恩師の西野忠次郎先生は,患者が部屋に入ってくる様子でピタリと神経の病気を診断したものである…」と述べられ,患者を診察する時の心得を強調された。
私が入局して3年後,後眼部疾患の外来に配属になったある日,身体障害者の1級の患者が身体障害者手帳の更新のため眼科外来を受診した。60歳を過ぎた老人で片眼は戦争中外傷で失明し,他眼もほとんど見えない状態であるという。付き添いの人は誰もおらず白杖をついている。看護婦の介助で椅子に座ったが,一見して盲人らしい。すでに検査した視力の頁をカルテで見ると右光覚なし(無眼球),左光覚弁(+)(矯正不能)と記されていた。患者は座るなり,「自分の眼は戦争中に爆発により右眼は失明し,その時から左眼も見にくくなり,結局右眼は眼球摘出をし,左眼もほとんど見えないので身体障害者手帳をもらって生活保護を受けている。今回は前回診断してもらった医師が転勤でいなくなったので,慶應病院に来た」と,そして「自分はほとんど見えないので身体障害者の1級になるので書類は今日すぐに書いてほしい」と請われた。
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