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腺様嚢胞癌adenoid cystic carcinomaは涙腺腫瘍の中で多形性腺腫に次いで2番目に多く,涙腺悪性腫瘍の代表的な疾患である。患者は10歳台から70歳台におよび40歳台に最も多い。女性のほうが男性よりもやや頻度が高い。腫瘍は浸潤性に神経周囲や外眼筋に広がるので,疼痛,眼瞼下垂,複視などの症状が発症初期から出現し,症状は短期間に悪化進行する。画像では,多形性腺腫に比較して腫瘍の境界がより不明瞭かつ不規則である。腫瘍の浸潤で症例の80%に骨の破壊が観察される。腫瘍はしばしば上眼窩裂に達して,三叉神経の眼枝および中頭蓋窩に広がる。遠隔転移は少ないが,頸部および耳側リンパ節が侵される。腫瘍が骨や筋肉に浸潤しているために,完全な剥出は極めて難しい。
病理学的には,腺様嚢胞癌は涙腺の上皮性悪性腫瘍で,篩型またはスイスチーズ型(図1),硬化型,基底細胞腫型(図2),コメド癌型(腫瘍塊の中央が壊死に陥っている),腺管型などの形態をとる。腫瘍塊の中央に粘液用の物質が貯留して,篩状またはスイスチーズ様をしているものが最も多い。細胞塊の中にできた管腔様のスペースは,細胞塊周囲の間質と連絡する通路が存在し,間質と類似した基底膜様物質や膠原線維が貯留している(図2)。しかし,これは真の腺構造ではなく,腺類似の構造であるので,腺様adenoidと呼ばれている。疼痛やしびれがある症例では,腫瘍細胞の神経周囲への浸潤がみられる(図3)。腺様の構造を示さない基底細胞腫型basaloid typeが最も予後が悪く,5年生存率は約20%である。これに対し,基底細胞腫型の様子が全くみられない非基底細胞腫型nonbasaloid typeの5年生存率は約70%であるという。
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