Japanese
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談話室
科領域で慣用されている1,2の術語について
On some common Terminology in Ophthalmolgy
金田 招重
1
1熊大眼科
pp.879-880
発行日 1954年8月15日
Published Date 1954/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201961
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1.梗塞(Infarctus)
我々は日常外来で瞼板腺梗塞(Infarctus glandulaetarseae)という診断をよくつける。しかしこの様な診断は妥当であろうか。現在の病理学では梗塞は循環障碍に密接な関係があるとし,その成り立ちを加味して梗塞とは吻合枝をもたない小動脈,即ち終動脈が急に,しかも永久に閉塞した場合に,その流域下に属する組織に起る壊死であると定義している。この定義に従えば瞼板腺梗塞という名称が良くないことは明らかである。眼科領域では網膜中心動脈塞栓症**にみる網膜の状態こそこの病理学に於ける定義にかなつた梗塞であろう。すでに欧米の眼病理学書にはこのような意味で網膜梗塞という言葉を使用しているのである。
それでは瞼板腺梗塞という呼び方は全くの誤りであろうか。これをはつきりするためにはInfarctusという言葉の語源にさかのぼつて歴史をたどつてみなければならないのであろうが,実は既に緒方先生の名著病理学総論に詳しい解説があり,私の疑問は氷解してしまつた感じである。緒方先生の解説を適宜にひろいあげて次に記そう。即ちInfarctusとはラテン語のinfarcio (詰め込む)に由来し古くから医語として使われていたが,この『詰め込む』という簡単な言葉の中にその時代の思想に従つて色々な意味が盛られた。液体病理学的の考えが支配していた昔は,この『詰め込む』という概念は単純で殆んど文字通りの意味をもつていた。
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